東北大学,日本女子大学,大阪公立大学,早稲田大学,中央大学,立命館大学は,植物葉緑体の祖先である藍藻のNa+/H+の対向輸送体が光合成の制御において重要な役割を果たすことを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
陸上植物の葉緑体ではカリウムイオン(K+)/水素イオン(H+)対向輸送体が光合成の最適化に寄与することが分かっている。一方,葉緑体の祖先であり海水中にも生息する藍藻はNa+/H+対向輸送体を持っている。
これは,陸上植物がNa+/H+対向輸送体からK+/H+対向輸送体を分子進化させることで,Na+が少ない陸上環境に適応したことを示唆している。しかし,藍藻がNa+をどのように利用しているのか,また,Na+/H+対向輸送体の具体的な機能や役割については,まだ明らかにされていなかった。
研究グループは,様々な光条件下でNa+を添加した培地と無添加の培地で藍藻の生育を比較したところ,Na+を添加した培地でのみ強光条件下(晴れた日の日中ぐらいの光量)での生育が確認された。これは,藍藻がNa+を利用して光合成を制御していることを示唆している。
また,NhaS1およびNhaS2が欠損した藍藻では,強光条件下で生育できず,光合成収率が劇的に低下した。この結果は,藍藻の光合成においてNa+/H+対向輸送体が重要な役割を果たしていることを示している。
さらに,この研究により,光合成生物が進化の過程で陸上に適応する際に,Na+/H+対向輸送体からK+/H+対向輸送体へと分子を進化させて,環境に適応した背景があると考えられる。
研究グループは,このイオン輸送体の機能と役割の発見により,光合成の最適化メカニズムの理解が進み,藍藻を活用したバイオ燃料の生産や,農作物の収量向上といった実用的な応用が期待されるとしている。