東京大学とダイセルは,次世代の結晶スポンジを開発した(ニュースリリース)。
結晶スポンジ法は,2013年に東京大学が発表した新しい構造解析技術。絶対配置を含む分子の構造は,解析対象分子を結晶化して単結晶X線回折法で解析するのが最も信頼性の高い手法と考えられているが,化合物の結晶化が必要という点が大きなボトルネックであり,単結晶X線構造解析の100年問題と言われている。
化合物量が微量だと結晶化は難しく,そもそも液体や気体分子は結晶化しないが,結晶スポンジ法は,この結晶化工程を必要としない革新的な技術。内部にナノメートルサイズの孔を有する多孔性の結晶(MOF)を作製し,このナノ空間に解析対象分子を染み込ませて捕捉することで分子が規則正しく配列し,単結晶X線回折法により分子構造を決定できる。
今回,研究グループが独自に開発した,有機配位子にアミド基を導入した新しい結晶スポンジは,物理的かつ化学的安定性が高く,細孔環境が従来の結晶スポンジと反対の親水性であることから,極性が高い分子に適用できるようになった。
また従来の結晶スポンジは,細孔内に溶媒分子を取り込むことで構造を保持しているため,構造解析時はまず,溶媒分子を構造解析対象分子で置換する必要があった。しかし新たに開発した結晶スポンジは,真空下加熱して細孔内の溶媒分子を完全に除去して空にしても構造を安定に保持できることが明らかになった。
そのため,この特性を活かした,ガスクロマトグラフ(GC)分取と結晶スポンジ法を組み合わせたシームレスな新規構造解析手法であるGC分取×ダイレクト結晶スポンジ法の開発に取組んだ。
溶剤に溶解した複数の香気成分(5mg/mL)をガスクロに注入し,カラム分離した各香気成分を分取管に詰めた結晶スポンジに包接させ,結晶スポンジを取り出してX線構造解析を実施したところ,それぞれの香気成分の構造を決定することができた。
このように,材料としての安定性が向上したことから取扱いが容易になり,結晶スポンジ法の社会実装に向けて大きく前進した。微量で揮発性が高いために解析が難しかった臭気成分や環境物質の構造解析も可能だとしている。
研究グループは,今回の開発により,結晶スポンジ法はより革新的かつ汎用性のある構造解析技術として,創薬を始め,より広い分野への適用,貢献が期待できるとしている。