村田製作所は,体表に貼り付けて生体情報を収集する医療・ヘルスケア用ウェアラブル機器などへの活用を想定し,曲げ伸ばししても高い信頼性を保ちながら回路が動作する「ストレッチャブル基板」を開発した(ニュースリリース)。
近年医療分野では,より正確な診断を下すため,病院内で実施する高度な検査だけではなく,日常生活の中で継続的に収集する生体情報の重要性が高まってきている。生活習慣病や社会的ストレスに起因する疾病を防ぐ観点からも,日々の生体情報の管理は重要となる。
しかし,従来の生体モニタリングでは,身体を動かす際に起こりうるセンサの剥がれや,乳児や高齢者の繊細な肌へのダメージなどの懸念がある。また体動や外乱ノイズによる測定データの乱れも課題となっていた。伸縮性基材として知られているTPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)においては,高湿度環境下で使用する際には絶縁性の低下や,高湿下で金属配線パターン配線などに短絡を引き起こすイオンマイグレーションの発生が危惧される。
そこで同社は素材,設計,プロセス技術を最適化することにより,曲げ伸ばししても電極や配線の導電性を失うことのない製品を開発した。柔らかく伸びる基板であるため,可動部に装着しても身体の動きに追従して密着状態を維持し,肌への負担を低減できるとする。
また,オペアンプを電極の近傍に置くことや,シールドレイヤーを多層構造で形成することで,曲げ伸ばしに伴って生じるノイズや外乱ノイズの混入による信号の乱れを抑制できる。加えて,高湿度下でも高い絶縁性が担保された基材を用いることで,TPU基板使用時に生じる配線間の絶縁性低下への対策を講じている。このため,機能性と安全性を維持しながら回路を動作させることが可能。
要求仕様に応じて,フィルタやアンプ,各種センサを一つのシートに搭載することができるため,精度の高いデータの取得や様々な項目のセンシングを可能にする。FPC(フレキシブル基板)やPCB(プリント基板)などの異種基板との接合も可能。また,電磁ノイズを抑制するシールド層を信号配線上に積層することで,正確な信号の測定に貢献するという。
基板の大きさは最大290mm✕230mm,厚さは100μm前後(1層の場合),配線部には銀インクを用い,伸長率は60%(伸縮回数や配線抵抗値による)となっている。同社では要求仕様に基づいたカスタム設計,試作・検証,量産を行なうとしている。