富山大学の研究グループは,世界最小電圧で駆動する有機ELの駆動メカニズムの一部を分子動力学シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。
分子動力学(MD)シミュレーションは,異なる材料間の界面など,不均質な環境における分子構造を解析するための強力な理論計算ツールとして知られている。
従来のOLEDに関連する計算は,単一分子あるいは2分子混合物のバルク状態に焦点を当てた報告が多くあった。また,OLEDにおけるエキサイプレックスの理論計算による報告例はこれまでほとんどなかった。
これは従来のOLEDデバイスが孤立・分散した発光分子から構成されているのに対し,エキサイプレックスは一般的にヘテロ状態で使用されることで複雑な分子構造を形成し,計算コストの高い解析が必要になるため。
一方研究グループではこれまで世界最小電圧で駆動する新しいタイプの有機ELを開発してきたが,駆動メカニズムの肝となるドナー/アクセプター(D/A)界面の分子状態は未解明だった。これらのOLEDでは,エキサイプレックス形成を引き起こす2つの構成分子は混合された構造というよりもむしろ平面的なヘテロ界面として配置されている。
p型(ドナー)半導体とn型(アクセプター)半導体を分離することで,これらのOLEDはデバイスの動作安定性を向上させているが,適切なD/A界面の組合せとOLED性能の相関関係は未解明だった。これは,エキサイプレックスの形成とデバイス性能は,平面ヘテロ界面における分子の配向とコンフォメーションに非常に敏感であるため,実験における再現性や界面近傍の詳細な解析が困難だったため。
そこで研究グループは,3つの異なるアルキル鎖長(n=4,8,13)についてCn-PTCDI/ルブレン界面の分子シミュレーション解析を世界で初めて行なった。ドナー/アクセプター(D/A)界面における密度,分子配向,コンフォメーションを解析することで,実験結果で観測されるアルキル鎖とデバイス性能の相関関係を解明することに初めて成功した。
特にn=8では,ドナーとアクセプター間の距離が最小になり,両者の電子波動関数の強い重なりが生じることで,電荷移動が最適化される機構が明らかになった。研究グループはこれらの知見について,低電圧駆動型OLEDの開発に新たな可能性を与えるものだとしている。