東北大学の研究グループは,植物の健康状態を遠隔からスマートフォンなどの端末で確認できる新しい小型センサを考案・開発した(ニュースリリース)。
近年の高温,多雨,乾燥といった急激で極端な気象変化は,植物に大きなストレスを与えており,短期的には農作物の収量に影響を及ぼし,中長期的には農林業の持続性や生態系の多様性にも深刻な影響を与える可能性がある。そのため,環境変動に対する植物の生理応答やストレス評価は解決すべき重要な技術課題となっている。
しかし,個体レベルでの植物の手動測定は煩雑で,高額な装置が必要になるため,フィールドでの試料や測定ポイントには限界がある。昨今では航空機やドローンを用いたリモートセンシングも行なわれているが,上空からの光学観察では植物群落の表面的な情報しか得られず,補正が必要であるほか,正確な経過観察が難しいなどの課題が残っている。
研究グループはこの課題を解決するため,植物の葉の裏側に直接取り付けるセンサを考案・開発した。センサには小型の分光センサと光源が搭載され,反射分光測定により葉色を測定する。センサを葉の裏に固定することで太陽光を妨げず,同じ場所を繰り返し測定することで,変化を正確に検出できる。
さらにバッテリー駆動やWi-Fi通信を介したクラウドストレージへのデータ転送,防水性の実現により,屋外でも1か月以上の連続稼働が可能となっている。
センサの機能テストでは,夏から秋にかけて採集した約30種類の植物のさまざまな色の約90枚の葉を使用し,市販の分光器との測定結果を比較した。その結果,センサが検出できる8つの波長のうち7つで信頼性が確認され,正確に色を判別できることが示された。また,波長620nmの反射率は,市販のクロロフィル計測器の測定結果と高い相関を示すことも明らかになった。
次に,センサが植物の環境ストレス応答を検出できるかを調べた。実験には,光照射によって環境ストレス応答を示すシロイヌナズナの変異体を用いた。その結果,550nmの反射率の変化が環境ストレスに対応することが明らかになった。これは従来用いられてきたPRI指標の検出波長や知見とよく一致する。
さらに,屋外で樹木の葉にセンサを取り付け,2週間にわたって紅葉を測定した。測定結果は,紅葉による色変化や落葉,枯死の過程を示している。これらの測定データの中から,実際のクロロフィル量の低下の様子,日照強度に応じたストレス応答指標の変動を観察することができた。
研究グループは,この小型センサはわずか数千円で作製可能なことから,農業分野などへの活用が期待されるとしている。