東京大学の研究グループは,大規模並列論理演算が光の速度で実行可能な全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を提案した(ニュースリリース)。
ポストムーア時代を見据え,光の持つ多様な物理的性質を活用する光コンピューティング分野の研究が活発化している。その実現のため様々な手法が検討されているが,演算規模の拡大性とデバイスの集積性の間に依然として大きな課題が存在し,スケールアップに適した新たな演算手法の提案が望まれていた。
研究グループは,科研費 学術変革領域研究(A)「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成」プロジェクトにおいて,1980 年代に我が国で発明された「Shadow Casting」と呼ばれる並列型光演算法に着想を得て,小型光学系を用いて大規模並列論理演算が実行可能な全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を提案した。
提案手法では,光の空間並列性および波動性を積極的に活用するために新たに設計した回折光学素子を積層した小型光学系により,光を各回折光学素子層で変調することで,所望の演算が光の速度で並列に実行されるという。
特にこの手法は,光学系に入射する光パターンの変更のみで演算選択が可能であり,既存手法では不可欠であったエンコーディングやデコーディングを伴わないため,高集積な全光演算が可能となるとする。
加えて,研究グループは数値実験により提案手法の性能評価を行ない,これまで困難とされていた16種の256ビット並列論理演算を単一の小型光学系で誤差なく達成できることを確認した。
人工知能を学習する際の計算資源として用いられているGPUやTPUに代表されるように,現在の情報社会において並列演算は重要な役割を担っており,光の速度で大規模並列論理演算を実行できる提案手法は,大きな社会的意義を持つ。
この手法は,独自の光学系設計により,従来法に比較して高い集積性,拡張性,実用性を併せ持つことも数値実験において示された。
この研究は,次世代計算システムにおいて,空間並列性を活用した光コンピューティングが多大に寄与できる可能性を示した。さらにこの手法はコンピューティングにとどまらず,イメージングやセンシングと融合した新たな情報処理機構の枠組みの基盤となり,幅広い分野へ波及することが期待されるとしている。