富山大学の研究グループは,光線力学療法において既存薬を超える薬効を示すロタキサン型薬剤を開発した(ニュースリリース)。
光線力学療法は近年注目されている副作用の少ないがん治療法。この治療法では薬剤となる光感受性物質を体内に投与したのち,がん組織にレーザー光を照射する。
光を吸収した薬剤は,酸素にエネルギー移動を起こし,がん細胞障害性を有する活性酸素を発生させてがんを治療する。しかし,この治療法に利用可能な光感受性物質は水に溶けにくいことに加え,発生した活性酸素に対する安定性が低いため,投与量が増え,その結果,副作用が増大するという欠点を持つ。
研究グループは,光感受性物質の水溶性および安定性の低さを改善するための方法として環状オリゴ糖(シクロデキストリン)で光感受性物質を不可逆的に封止するロタキサン化戦略を利用した。ロタキサンとは環状分子に軸分子を貫通させた後,軸分子の末端にストッパー分子を接続することで環状分子が軸分子から外れないようになった構造体を指す。
今回,光感受性物質と環状オリゴ糖の複合体に解離を抑制するストッパー分子を結合させることで,生体内環境でも包接状態が維持されるロタキサン型薬剤を開発できた。光感受性物質が環状オリゴ糖によって外部環境から遮断されているため,ロタキサン型薬剤は,高い水溶性と安定性を示した。
さらに,正電荷を帯びた薬剤は,正常細胞よりも負に帯電しているがん細胞内に効率良く取り込まれた。薬剤を投与したがん細胞に光を照射すると,有意ながん細胞死が起きることが確認された。臨床利用されている従来の薬剤と治療効果を表すIC50の値を比較したところ,ロタキサン型薬剤は約50倍の薬効を有することがわかった。
研究グループは,ロタキサン構造を有する医薬品は市場に存在せず,この成果は創薬研究に新たな潮流を生み出すことが期待されるとしている。