阪大ら,Ag-Si合金にパワー半導体接合材の適性発見

大阪大学とダイセルは,液体急冷法により作製した銀(Ag)とシリコン(Si)の共晶合金(Ag-Si合金)には,非晶質SiとAg過飽和固溶体の準安定相が存在していることを発見した(ニュースリリース)。

パワー半導体の接合材料として,電気伝導性や熱伝導性の優れたAgを用いた焼結接合技術が注目されている。共晶合金としてよく知られているAg-Si合金を急冷するとAg3SiやAg2Siなど化合物の準安定相が存在することは示唆されていたが,非晶質SiやAg過飽和固溶体についてはこれまで見出されていなかった。

Ag-Si合金の平衡状態図において,89%のAg,11%のSiの合金組成比を共晶と呼び,溶融状態の液相から835℃の共晶温度へ徐々に温度を下げていくと,Ag結晶相とSi結晶相とに相分離して共晶組織を形成することが知られている。

研究グループは,液体急冷法を用いてAg-Si合金を急速冷却したところ,Ag相とSi相とにナノスケールサイズで相分離していることを見出した。また,Ag相にはSiが約5%固溶したAg過飽和固溶体が形成され,さらに,非晶質のSi相の準安定相を生成していることを見出した。

さらに,液体急冷Ag-Si合金粉末を加熱すると,準安定相であるAg過飽和固溶体に固溶しているSiの酸化反応により,副産物としてAgが析出することを発見した。液体急冷Ag-Si合金粉末の走査電子顕微鏡(SEM)像では,加熱処理前の粉体表面はスムーズであることが分かった。

一方,この粉末試料を窒素99.9% 酸素0.1%の混合ガスをフローさせながら280℃で3時間エージングを実施すると,粉体表面にはAgの析出(ノジュール)構造を形成することが分かった。

そこで,低温にて析出するAgを接合技術へと応用できないかと検討した。液体急冷Ag-Si合金リボンに対して加熱処理を行なった後のSEM像では,リボン表面にはAg析出構造が成長していることが分かった。

このリボン形状を切断することによりシート形状に加工して,Cu(銅)チップと基板(Ag蒸着コート済み)とで挟み込みんだ。大気中において20MPaの圧縮応力を印加しながら,300℃において1時間の加熱を行なった。

その結果,Ag析出構造を介して焼結接合することに成功し,その接合のシェア強度は約20MPa程度と,市販品のはんだ材料と同程度の強度を持つことが実証された。

今回,非晶質SiをAg-Siの共晶反応により液相から直接凝固して得られる事を見出した。研究グループは,ワイドバンドギャップ半導体デバイス向けの新たな接合材料として期待されるとしている。

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