東京農工大学の研究グループは,チタン錯体を原料に用いて,簡便な手法で分子性酸化チタンを安定化し,水素生成光触媒として機能することを明らかにした(ニュースリリース)。
酸化チタン(TiO2)はエネルギー製造や環境浄化,セルフクリーニング機能を持つコーティング材への応用など,様々な分野で光触媒として注目されている。TiO2は通常,TiO6八面体からなる結晶構造をとるが,粒径をナノメートルオーダーまで微細化すると,エネルギー準位が離散的になり,バルク状態では見られない光触媒特性を発現することが知られている。
特に,分子・原子レベルまで微細化されたTiO4ユニットのような分子性酸化チタンは,エネルギー準位がさらに離散的になり,結晶性酸化チタンとは異なる独特の光化学特性を示す。
しかし,この分子性酸化チタンは非常に不安定であり,容易にアモルファスや結晶性酸化チタンに変化してしまうため,その高い触媒活性を維持することが難しい。従来のTi原料では自発的な加水分解や重縮合が進行するため,分子性酸化チタンの安定化手法の構築が求められていた。
研究グループは,適度な安定性と反応性を持つ酸化チタン(Ⅳ)ビスアセチルアセトン(TiO(acac)2)を原料として使用し,メソポーラスシリカの細孔表面に存在するシラノール基に分子性酸化チタンを固定化する手法により,通常は不安定な四配位構造の分子性酸化チタン(TiO4)を安定化することに成功した。
この分子性酸化チタンは,既存のTiO2参照触媒に比べて2,3倍高い水素生成光触媒活性を示し,メソポーラスシリカ表面に強固に固定化されており,光触媒反応時にも脱離しないことを確認した。また,この光触媒は600℃までの熱安定性を持つ。
さらに,この手法を他の金属種や母体に展開することで,多様な組成と構造を持つ不均一系分子光触媒の開発が期待されるという。研究グループはこの成果について,エネルギー製造だけでなく,ファインケミカルや環境浄化の分野への応用も期待されるとしている。