大阪大学,豪アデレード大学,大阪産業技術研究所は,テラヘルツ波の偏波を100GHz以上の広帯域幅で制御し,経路を多重化・分離できる小型デバイスを開発した(ニュースリリース)。
通信容量の増大,あるいは双方向通信の実現に向け,5Gで利用されている28GHz帯の最大帯域幅0.4GHzよりも二桁,あるいは,今後,40GHz帯で割り当て予定の6.5GHzよりも一桁以上広い帯域幅でテラヘルツ波経路の制御技術が求められている。
直交する偏波同士は,同じ周波数でも混じり合わないため,2つの直交する偏波に異なる情報を載せることで信号の多重化ができる。そのためには,空間的に分離している偏波を多重化,あるいは重なり合った偏波を分離する偏波多重化分離デバイスが必要となる。
シリコン配線中を伝搬するテラヘルツ波のシリコン配線に別のシリコン配線を近づけると,テラヘルツ波が乗り移る。研究では電界の振動方向がシリコンの板に対して水平方向である水平偏波と垂直方向である垂直偏波で材料との相互作用を変え,同じ周波数で水平偏波と垂直偏波の伝搬方向を分離することに成功した。
また,厚さ238μmのシリコンの板に周期100μmで孔を空けた人工媒質を配線の周辺に形成するとともに,幅100μm以下の空隙を形成することで,水平偏波と垂直偏波の違いを強調し,デバイス本体部分を約50mm2まで小型化した。
この人工媒質の大きさは対象とする波長である約1mmよりも十分に小さく,かつ周波数依存性が小さい有効媒質として働く。空隙も同様に波長と比較して十分に小さいため,225GHz~330GHzという100GHzを超える従来の多重化分離デバイスと比較して,約2倍広い帯域幅にて多重化分離機能が実現した。
この偏波多重化分離デバイスにテラヘルツ送信器と受信器を接続したところ,水平偏波と垂直偏波ともに75Gb/sでの伝送に成功した。水平偏波と垂直偏波を同時に用いれば,倍となる150Gb/sが得られるほか,75Gb/sでの双方向通信も可能。
今後,シングルチャネルにて世界最高の通信速度が得られている超低雑音信号発生器を利用することで500Gb/s級に迫るシングルキャリア周波数での通信に加え,より高い周波数帯の利用による一層広い帯域幅の実現と周波数多重化を組み合わせ,Tb/s級の伝送も期待できる。
帯域幅を活かせばミリメートル級の空間分解能を有するレーダーセンシングと通信とを融合させたような新たな応用にもつながる。研究グループは,は偏光センシングや,光通信波長帯全てをカバーしたような偏波制御デバイスの実現も可能だとしている。