工学院ら,ラマン分光などで全固体電池分析法を開発

工学院大学,ファインセラミックスセンター,電力中央研究所は,全固体電池のマルチスケール分析手法を新たに開発した(ニュースリリース)。

全固体電池は,既存のリチウムイオン電池で使用される揮発性の液体電解質を固体電解質に置き換えることで,安全性が飛躍的に向上すると期待されている。

この安全性の向上により,電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電用途としての大型蓄電池など,幅広い応用展開が可能となる。実用化に向けた研究開発を加速するためには,電池の動作中に複雑な反応を正確にモニタリングし,それぞれの相関関係を解明する分析手法が求められている。

研究グループは,2021年度より資源制約の極めて少ない次世代蓄電池の候補として期待される酸化物系全固体ナトリウム電池の開発に携わってきた。

この研究の中で,電池の動作中にオペランド走査電子顕微鏡/エネルギー分散X線分光計測とオペランドラマン分光計測を用いて,マイクロメーター・原子スケールでの元素分布や結合状態の変化を観測した。さらに,飛行時間型二次イオン質量分析計により,同一電池におけるナノスケールでの精密な元素分布も捉えた。

これにより,幅広いスケールで全固体電池の反応を直接観測できるマルチスケール分析の確立に成功した。このマルチスケール分析では同一電池を用いるため,各計測で得られるデータの相関性(例:電極全体の濃度変化と単一材料内の構造変化)を精密に結びつけることができるという。

この手法により,複雑な過程で生じる充放電反応の全体像を理解することが可能となり,動作中の現象に基づいた材料開発やセル設計を通じて全固体電池の実用化に一歩近づくことができた。

研究グループは,今回の成果は,全固体電池をはじめ,リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池など,様々な蓄電デバイスへの展開が期待されるとしている。

※2024年10月4日(金)分光基礎セミナー「ラマン分光法」 開催

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