理化学研究所(理研)は,植物の種子において油脂の合成に必要な酵素を明らかにした(ニュースリリース)。
油脂トリアシルグリセロール(TAG)は,種子の主な貯蔵物質として植物体のエネルギー源になるばかりでなく,バイオ燃料や食品の生産など幅広い産業で利用される。
油脂は光合成により生産される糖から合成されるため,油脂が合成される代謝過程を明らかにすることは,環境中の二酸化炭素を脂質などの有用な物質に変換する代謝改変技術の開発と,低炭素社会の実現に向けたバイオものづくりへの貢献を目指す上でも重要となっている。
油脂の原料となる脂肪酸は,光合成が行なわれる葉緑体で合成されるが,油脂の合成は小胞体で起こることが知られている。しかし,葉緑体から小胞体への代謝の流れと,それに関与する酵素の実体と機能については不明点が多く残されていた。
研究グループは,2023年,葉緑体と小胞体が近接する場所で働く一対の酵素LPPが種子において葉緑体から小胞体への油脂合成の制御に関わることを明らかにした。LPPはホスファチジン酸(PA)という脂質前駆体を代謝する酵素だが,葉緑体においてPAを供給する酵素の実態は不明だった。
研究グループは,葉緑体においてPAを合成する酵素LPAT1に着目した。LPAT1は葉などの光合成組織において葉緑体の光合成膜を形成するための脂質を供給する酵素で,LPAT1を欠損した変異体は致死になることが知られていた。そこで,葉などでの光合成への影響を回避して種子での影響だけを評価するため,種子の発達時にのみLPAT1の機能が抑制される組換え植物体を構築し,その機能を解析した。
その結果,発達中の種子においてLPAT1を抑制しても葉緑体の光合成膜を構成する脂質の組成には影響が見られなかったが,小胞体で合成される主なリン脂質でTAGの前駆体であるホスファチジルコリン(PC)の量が特異的に減少し,その結果TAGの品質にも影響が見られた。このことから,LPAT1は発達中の種子において葉緑体から小胞体への油脂合成に関与することが明らかとなった。
研究グループは,この研究成果により,発達中の種子において葉緑体から小胞体への油脂合成に関わる新しい代謝経路の存在が示唆され,今後こうした代謝経路を人為的に改変することで,バイオ燃料などをより効率的に生産する技術の開発に貢献することが期待されるとしている。