東北大学の研究グループは,ナノメートルサイズのダイヤモンド(ナノダイヤモンド)結晶をシリコン振動子上に固定し,ODMR法により振動子上の応力をモニタする技術を開発した(ニュースリリース)。
近年,単結晶ダイヤモンドの加工技術の進歩により,ダイヤモンドは微小電気機械システム(MEMS)の次世代センサーを担う有力な材料の1つとして再注目されている。
MEMSには,加工がしやすく安価で資源が豊富なシリコンがよく用いられている。一方,同じ結晶構造のダイヤモンドは硬さや温度係数などでシリコンに勝る機械特性がある。
これまでは,両物質の熱膨張係数が異なるなどの理由で,シリコンとダイヤモンドの接合に課題があり,ダイヤモンドは微小機械の構造体としてはあまり注目されてこなかった。また,ダイヤモンドには大面積化や加工が難しいという課題もあった。
しかし近年,新しい技術の進展により課題が克服されつつあり,ダイヤモンドはMEMSの次世代センサーを担う有力な材料の1つとして再び注目されている。
研究グループは,ナノダイヤモンド結晶をシリコン振動子上に固定し,シリコン製振動子の振動の振る舞いをダイヤモンドの光検出磁気共鳴(ODMR)で観測する技術を開発した。この技術は,ダイヤモンド結晶内の窒素-空孔中心(NVC)を用いた磁気共鳴センシングに基づくもので,磁気共鳴による量子状態の変化から微小機械による力(応力)として検出する。
これまで,ダイヤモンド結晶をシリコンのような異種材料に貼り付けて応力を計測した事例はなく,今回,ナノダイヤモンドの微粒子をまばらにシリコン上に噴霧し,二酸化ケイ素(SiO2,シリカ)スパッタ層によってSi表面に固定された単一ナノダイヤモンドを有する片持ち梁型フォースプローブを開発した。
また,微小機械の動的な振動に対して,ストロボスコープの原理を用いて振動変位を定めてダイヤモンドの蛍光強度を観測することで,NVCに加わる圧縮応力や引張応力が加わった状態を定常的に計測できるように工夫した。そして,ナノダイヤモンドの結晶軸と静磁場を調整することでODMRスペクトルのピークシフトとカンチレバーの振動による応力強度との相関を調べた。
その結果,ODMRスペクトルのピークシフトがシリコン製片持ち梁の振動による表面応力を効果的に検出できることがわかった。また,シリコン製振動子のねじり振動でもピークシフトが観測され,多軸の軸方向の応力検出が可能であることが示された。
研究グループは,この成果により,将来,ダイヤモンド結晶内の量子状態と機械振動とを結合した量子×電気機械デバイスの開発につながるとしている。