千葉大学,名古屋大学,自然科学研究機構は,渦巻き状に折りたたまれた,構成分子が鎖状に連結された鎖(ポリマー主鎖)が,自発的にほどけながら主鎖間で凝集して沈殿する,光応答性の超分子ポリマーの開発に成功した。(ニュースリリース)
分子間に働く非共有結合により構成分子が鎖状に連結することで形成される超分子ポリマーは,従来の合成高分子にはない刺激応答性や電子的・光学的機能を示すため,次世代高分子材料としての応用が期待されている。最近では合成高分子と同様のアプローチにより重合度(長さ)の精密制御が可能になりつつあるが,超分子ポリマー主鎖の高次構造の制御は未だに容易ではない。
高分子主鎖の高次構造は、生体高分子においては機能を発現するために最も重要な構造ファクターという。また,合成高分子においても主鎖のフォールディングと凝集は,プラスチックの機械的性質や熱的性質を左右するため,その制御は重要となる。
今回,フォールディングと凝集の両方の過程が競合して起こる光応答性超分子ファイバーの開発に成功し,その過程をAFMにより直接観察した。これまで,有機溶媒中で水素結合により機能性分子をディスク状に集合させると,形成された機能性ディスクが自発的に積層することで,湾曲を帯びた多様な超分子繊維を形成することを見出していた。
この研究のポイントは,機能性分子の構造によってディスクの平面性が変化し,平面性が低いとディスクは湾曲を帯びずに直線的に積層すること。湾曲する繊維は,螺旋や渦巻き等の丸みを帯びた構造を形成するため,一本鎖で折りたたまれた状態を取るが(フォールディング),直線的な繊維は,剛直なために異なる繊維同士で集まって析出する(凝集)。また,ディスクの直径は10nm程度と大きいため,形成される繊維の幅は10nm近くにおよび,AFMによって可視化できるという特徴も挙げられる。
研究グループは,フォールディングと凝集の両方の性質を示す機能性ディスクが開発できれば,AFMによってその過程のスナップショットを撮影できるのではないかと考えた。そこで,機能性分子に,ディスクの平面性を変化させられるような仕掛けを組み込むことを検討した。
その結果,フォールディングと凝集の両方を引き起こす超分子繊維を初めて開発し,AFMによる中間状態の可視化,および非侵襲性の外部刺激である光を利用した任意のタイミングでの凝集の誘起を実現した。
研究グループは,これまで顕微鏡による直接観察が困難であったナノスケールの現象の深い洞察を可能にし,今後の材料科学の発展に大きく貢献すると期待できるとしている。