北海道⼤学と⾼知⼯科⼤学は,従来⽐10倍の性能を⽰す実⽤レベルの酸化物薄膜トランジスタを実現した(ニュースリリース)。
現在商品化されている,有機ELテレビやスマートフォンの画⾯を駆動するための薄膜トランジスタ(TFT)⽤の活性層材料として,酸化物半導体であるアモルファスInGaZnO4(a-IGZO)が使⽤されている。
IGZO-TFTの電⼦移動度は5~10cm2/Vs程度だが,有機ELテレビなどの超⼤型化・超⾼精細化が進められており,次世代8Kディスプレーを開発するためには,70cm2/Vs以上の電⼦移動度を⽰すTFTが必要不可⽋とされている。
この問題に対し,研究グループは,酸化インジウム(In2O3)薄膜を活性層とすることで電⼦移動度140cm2/Vs を⽰すTFTを実現したが,実⽤化のために必要な安定性(信頼性)が悪いという⼤きな⽋点があった。⼀般に,活性層である薄膜表⾯に吸着した空気中の気体が,電圧の印加により脱離(または吸着)することが原因であると考えられているという。
この研究では,活性層薄膜の表⾯を保護膜で覆うことにより,空気中の気体が吸着しないようにTFTを作製した。保護膜として,酸化インジウムと同じ結晶構造をもつ酸化イットリウムや酸化エルビウムを含む希⼟類酸化物を中⼼に検討し,⽐較として⼀般的に⽤いられている酸化アルミニウムなどの保護膜も試した。
その結果,⼀般的に⽤いられる酸化ハフニウムや酸化アルミニウムを保護膜として⽤いたTFTでは安定性の向上が全く⾒られなかった。⼀⽅,酸化イットリウムと酸化エルビウムを保護膜にしたTFTは極めて安定性が⾼いことが分かった。
その電⼦移動度は78cm2/Vsであり,次世代8Kディスプレーの要求を満たしている。電⼦顕微鏡で原⼦配列を観察したところ,酸化インジウムと酸化イットリウムは原⼦レベルでピッタリ結合(ヘテロエピタキシャル成⻑)することが分かった。
⼀⽅,安定性が悪かった他のTFTでは,酸化インジウムと保護膜の界⾯はアモルファスになることが分かった。以上の結果から,酸化インジウム表⾯を原⼦レベルでピッタリ保護することで,気体の吸着・脱離を抑制し,⾼い電⼦移動度(78cm2/Vs)を保ったまま安定性を⼤きく改良することに成功した。
研究グループは,次世代8K有機ELテレビ実現に向けたディスプレー開発を⼤きく加速する結果となったとしている。