核融合科学研究所(NIFS)と京都大学は,分光計測システムを用いたプラズマ観測の技術を用いて,オーロラの詳細な色を調べることができる観測システム「オーロラ観測用ハイパースペクトルカメラ」(HySCAI)を設置し初観測に成功した(ニュースリリース)。
オーロラの観測では,光学フィルタを使用して特定の色の画像を取得するが,この方法は波長分解能が低い。一方,ハイパースペクトルカメラは,波長分解能の高いスペクトルの空間分布を得ることができる。
そのため研究グループは,大型ヘリカル実験装置(LHD装置)において,磁場中のプラズマからの発光の観測に利用してきたEMCCDカメラ付きレンズ分光器に,ガルバノミラーを用いたイメージ掃引光学系を組み合わせることで高感度のHySCAIを開発してきた。
計画立案から5年の歳月をかけて1kRのオーロラを計測できる性能をもつ,高感度のシステムを開発し,オーロラ帯の直下でオーロラを高い頻度で観測できるスウェーデンのキルナにあるスウェーデン宇宙公社エスレンジ宇宙センターのKEOPSにシステムを設置した。
令和5年9月から観測を開始し,日本からの遠隔操作によりデータを取得している。この観測にてオーロラのハイパースペクトル画像を取得,すなわちオーロラの2次元像を波長ごとに分解することに成功した。
オーロラ発光強度の較正,および設置後に取得した星の位置から観測位置の較正を行ない,ユーザーがすぐにデータを利用できるようにした上でデータを公開した。令和5年10月20日に発生したオーロラ爆発を観測し,このシステムを用いてどのようなデータを観ることができるかを明らかにした。その中で,異なる波長の光の強度比から電子のエネルギーの推定を行なった。
電子が低速の場合は,高い高度で発光し赤色の光を強く出す。一方,高速の場合は,低い高度まで電子が侵入し,緑色や紫色の光が強く出てくる。HySCAIで観測された各色に分解されたオーロラの二次元画像では,光の発生する高さの違いで光を生み出す元素が異なるため,色による分布の違いが観測された。このように,オーロラが生み出す様々な色の二次元画像が得られる装置の開発に成功した。
HySCAIにより,今回観測したオーロラ爆発時の降り込み電子のエネルギーは1600電子ボルトと見積もられた。これまで知られている値と大きな矛盾はなく,観測が妥当であったことが示された。
研究グループは,HySCAIにより,降り込み電子の分布やオーロラの色との関係,オーロラの発光メカニズムというオーロラの重要課題の解決に貢献できると期待されるとしている。