産総研,神経細胞活動をラマン分光と機械学習で検出

産業技術総合研究所(産総研)は,神経細胞の活動を評価できる新しい手法を開発した(ニュースリリース)。

研究グループは高速でレーザー光を走査し,高感度でラマンスペクトルを取得するペイント式ラマン分光システム(PRESS)を開発している。このシステムでは,レーザー光を対象区間の円内をらせん状にくまなく走査できる。レーザー照射時間を短縮することで細胞への熱ダメージを低減し,効率的に細胞全体からのスペクトルを取得できる。

今回,この技術をさらに発展させ,iPS細胞から神経細胞を作製し,PRESSにより神経細胞を計測する手法を検討した。一方,脳や脊髄,末梢系では神経細胞は集団で活動する。この集団に対しても簡便な計測を可能にする技術が必要だった。

そこでPRESSのレーザー光が走査できる領域を大幅に拡大し,特定の領域内に含まれる複数細胞から統合的なスペクトルをわずか数秒間で計測することに成功した。実験では,PRESSが神経細胞の活動を評価できるかを検証するため,単一の神経細胞を対象にした試験を行ない,グルタミン酸溶液による神経細胞の活動の変化の高精度な検出に成功した。

次に,神経細胞が集団で活動する神経核の計測が可能かを検証した。ヒトiPS細胞から作製した自律神経細胞を用い,研究グループはこの神経凝集体の機能を評価するため,複数の細胞からなる広い領域のラマンスペクトルを数秒間で取得できる手法を確立した。

具体的には,測定面積を最大49倍に拡大し,レーザー光の走査速度や露光時間を調整した。また,S/N比の高いスペクトルを計測するための条件を検討し,自律神経細胞を活性化するニコチン溶液または対照液に反応した神経凝集体から,それぞれ30領域ずつラマンスペクトルを取得した。

得られたスペクトルデータを機械学習で解析したところ,対照液に反応した神経凝集体(対照群)とニコチン溶液に反応した神経凝集体を98%の精度で識別できた。さらに,ニコチン刺激により神経活動に寄与する分子情報として,特定のラマンマーカーを検出できた。

さらに,ニコチンの濃度に依存した神経細胞の活動も評価できた。これは,ニコチンの濃度によって反応する神経細胞の割合や細胞内での変化が異なることを捉えた結果と考えられるという。

プローブ不要の非侵襲的な神経細胞評価システムは,再生医療や創薬における移植用細胞の品質管理や新薬の効果と毒性評価に貢献する。研究グループは,神経疾患の治療法の開発や神経科学の発展に役立つ成果だとしている。

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