九州大学の研究グループは,強誘電体(PLZT)薄膜をシリコン基板上に結晶膜を形成させる方法を見出し,超高速光変調器を作製することに成功した(ニュースリリース)。
光通信技術の高速化に対する要求は近年ますます加速し,イーサネットのリンクスピードは2030年までに毎秒3.2Tb/sまで高まると言われている。現在,産業界では400Gb/sの実用化に向けた開発が進められている状況なので,さらに8倍もの高速化がロードマップで記されていることになる。
しかし,このような超高速光データ伝送を実現することは容易ではなく,最先端の通信技術を用いても様々な課題を克服していく必要があり,特にデバイス開発では既存技術に依存しない新材料とデバイスの開発が必要と言われている。
研究グループでは,これまでに光変調器の高速化に向けた研究を進めてきた。今回の研究で開発したPLZT薄膜は,ゾルゲル化学反応を使って金属酸化物を生成する化学的手法を応用している。実験では,前駆体化合物をシリコン(SiO2/Si)基板上にスピンコートし,熱処理によって反応を完結することで一軸配向性の結晶構造を持つペロブスカイト型結晶薄膜を作製した。
得られたPLZT薄膜の電気光学係数は,汎用的な電気光学結晶(ニオブ酸リチウム)に比べて10倍近い値を持つ。薄膜の作製方法は容易であり,大型基板にも適応が可能な点も特長的であると言える。光変調器は,PLZT膜中に光導波路形成することで作製した。
光変調器は,長さ2.5mmの小型化を可能にしたばかりでなく,既存デバイスの10倍以上の動作効率を示し,高速性では170ギガボーレート以上で変調動作することを明らかにした。
光ファイバー通信用の変調器は,大きく長距離通信用と短距離通信用に分けることができるが,それぞれ使用するレーザー光の波長は,1550nmと1310nmと大きく異なる。PLZT変調器は,これら両方の波長に対応可能となる。
近年,市場拡大が進むデータセンター用のデバイス技術では,シリコン上に形成する光集積回路の高性能化が進んでいる。PLZT変調器は,このような光集積デバイスへの適合性も高いことも特長となっている。
研究グループは,このような超高速光変調は,6Gを支える様々な光ネットワーク伝送の最先端技術や光量子コンピュータを支える光集積技術への展開も期待できるとしている。