東京大学の研究グループは,強靭なサメの歯の無機成分であるフルオロアパタイトを主成分とした構造色を示すフォトニック材料の開発に成功した(ニュースリリース)。
液晶からなるフォトニック材料は従来の固体材料とは異なり流動性があるため,粒子の配向制御や外部からの刺激により変化を引き起こすことができ,またこの材料を塗料のように塗布することもできる。
棒状粒子は板状粒子に比べて配向制御が容易である利点がありながら,これまでのこのような構造色を示す液晶ナノ構造は1次元的に積み重なった構造が多く,応用が限定されていた。
研究グループはサイズの揃った棒状のフルオロアパタイトナノハイブリッドを合成し,2次元に集合させることで,虹色に輝くフォトニック材料を開発した。ナノハイブリッドは生物が骨や歯を形成するメカニズムであるバイオミネラリゼーションに着想を得て合成した。
粒子の形状観察と構造解析は走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を活用して行なった。各電子顕微鏡は文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業で東京大学に設置されている装置を利用した。合成条件を最適化することによって,長さが886から600nm,直径が228から129nmで非常にサイズ分布の狭いフルオロアパタイトナノハイブリッドを合成した。また,その粒子は直径5nmの小さなフルオロアパタイトの微結晶の集合体であることを明らかにした。
フルオロアパタイトナノハイブリッド自体は歯のような白色を示すが,特定の濃度に調製することで,液晶を形成し,青,緑,黄,赤などの発色を示した。非常に鮮やかな発色を示し,その反射率は50%以上にも及んだ。また,クジャクやタマムシで見られる構造色のように,見る角度によって色が変わる様子が観察された。
この構造色を示すフルオロアパタイトナノハイブリッドを高分子ネットワークでできたゲル中に閉じ込めて,動的な構造色を示すソフトマテリアルを得ることにも成功した。合成したゲルは鮮やかな構造色を維持したまま,見る角度によって色が変化する性質を示した。
このゲルに圧縮を加えると,フルオロアパタイトナノハイブリッドが形成したナノ構造の変化に起因した色の変化が観察された。この圧縮による色変化は,10回に及ぶ変形でも繰り返し観察することができた。また,電子顕微鏡観察によって,高分子ネットワークが粒子同士を緻密に繋ぎ合わせている様子を明らかにした。
研究グループは,今後は,人工骨やインプラントへの応用などバイオや医療分野での応用が期待されるとしている。