順天堂大ら,安価なDIY光シート顕微鏡システム開発

順天堂大学,自然科学研究機構 生命創成探究センター,生理学研究所,国立がん研究センターらは,導入に高額な費用を必要としない透明化組織観察用の光シート顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。

生体組織標本の透明化ができても,これを細胞レベルの解像度で網羅的に三次元観察するためには光シート顕微鏡などが必要となる。しかしその導入には高額(5000万円〜1億円)な導入コストと光学に関する専門知識のいずれか,または両方が必要だった。

光シート顕微鏡がSPIM として報告されたときの光学系は,レーザー光を光ファイバーで光学系に導き,一枚の凸レンズで数mm径の平行なビーム光とし,これをシリンドリカルレンズでシート状に集光して標本に照射するシンプルなものだった。

蛍光検出用の対物レンズは,光シートによる断層像が撮影できるよう直交配置される。光シート照射面からの蛍光は対物レンズで集められ,余剰な他波長成分を光フィルターで除去した後に,チューブレンズにてカメラの受光素子に結像される。

今回研究グループは,300mm×450mmのアルミ製のブレッドボード上で実現できるSPIM光学系(descSPIM)を考案した。レーザーが単色なら300万円,4色でも 500〜600 万円で,高度な専門知識を必要とせず,マニュアル通りに配置し,ネジ止めをしていけば,透明化した臓器標本を丸ごと細胞解像度で三次元イメージングできる光シート顕微鏡が完成する。

マウスの脳も数mm厚のスライス標本や半脳であれば,数分で三次元観察が可能。マウスの全脳についても,複数の三次元像を取得して繋ぎ合わせることにより,細胞解像度の全脳三次元像を再構成できた。

また研究グループで樹立したがん細胞株移植片(CDX)モデルについて,蛍光色素標識した抗がん剤を血中投与した後に腫瘍塊を摘出し,透明化して観察したところ,微小血管ネットワークと抗がん剤の組織内の分布を三次元的に可視化できた。

さらに,近年の病理学における最先端トレンドであるデジタル化・三次元化のデモンストレーションにも成功した。この標識対象は病理解析のゴールドスタンダードであるヘマトキシン&エオジン(HE)染色が標識しているものとほぼ同等。このことから,擬似カラーをHE染色標本と同じ色調に変換することで,三次元的な病理標本イメージを得ることができる。

研究グループは,デスクサイド観察のコンセプトを崩さずに,この技術を病理学分野に受け入れられるクオリティまで高められれば,診断の効率化への多大な貢献が期待できるとしている。

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