千葉大ら,光で触媒の化学反応の場を間接的に観察

千葉大学と青山学院大学は,「ランタノイド」を用いた触媒により,医薬品の開発に重要な複雑な構造を持つ化合物を1工程で高精度に合成することに成功した(ニュースリリース)。

化合物群「カルバゾール」は,多くの生物活性を持つため注目されているが,多くの置換基を持ち,特に,1つの炭素に4つの異なる置換基が結合した「四置換炭素」は,化学合成を行なう上で大きな障害となっている。

研究では,ホルミウム(Ho)などのランタノイド元素を用いた触媒を開発し,四置換炭素を持つ複雑なカルバゾール化合物の合成に成功した。各種ランタノイド触媒の中でも,特にホルミウム触媒が効率と純度の両面で最も優れた結果を示した。

「ディールス・アルダー反応」は,2つの単純な構造の原料を結合させて複雑なカルバゾールを1工程で作ることができるだけでなく,四置換炭素も同時に作ることができる。しかし,反応に使う原料の1つに反応を妨げる立体的な障害があったため,研究グループが保有するランタノイド触媒ではこの反応が進行しなかった。

そこで研究グループは,ホルミウムの周りにスペースを作ることで立体的な障害を克服した。この工夫は,ホルミウムの触媒機能を高める効果ももたらし,これまで反応が進まなかった原料同士を効率よく結合させることに成功した。

化合物には光学異性体の混合物として得られるが,この方法でカルバゾールを99%の純度で片方の形のみを選択的に作ることに成功した。さらに,触媒として利用したホルミウムは反応後に回収できる。ランタノイドは電子機器や電気自動車などに不可欠な天然資源であるため,この技術は重要。

さらに研究グループは,3つの異なる技術により,触媒の働きを”見える化”した。まず,ランタノイドの「光る性質」を利用した。触媒に使ったホルミウムと同様に,ユウロピウム(Eu)もカルバゾール合成の優れた触媒として機能した。研究グループは,ユウロピウムの光り方が周囲の環境によって変化する性質を利用して,反応中の触媒の状態変化を光の変化として捉えることに成功した。

次に質量分析を使って,触媒の「分子指紋」を調べ,触媒がきちんと設計通りの構造を持っていることを確認した。最後に,密度汎関数法を用いて,化学反応をコンピューター上で再現し,なぜ特定の形の化合物だけが選択的に作られるのかを原子レベルで説明した。これらにより,この合成法を科学的に裏付けることができた。

研究グループは,新薬開発の加速に大きく貢献することが期待される成果であり,特に,がん治療薬など,カルバゾール構造を持つ医薬品の効率的な人工合成が可能になるとしている。

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