大阪大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)は,放射光ナノビームX線回折法を用いて,窒化物半導体結晶中に存在する一本の転位によって生ずる3次元的な歪み場を検出することに成功した(ニュースリリース)。
近年,従来のシリコン半導体の性能を凌駕する化合物半導体として,窒化物半導体の研究開発が精力的に行なわれている。特に窒化ガリウム(GaN)は大きな絶縁破壊電界や飽和電子速度を有し,大電力・高速動作に適した特性を有するため,次世代パワーデバイス(電力制御用半導体)として電気自動車や次世代通信技術(6G)への応用が期待されている。
しかしGaN結晶の中には転位と呼ばれる欠陥が未だに存在し,デバイスの電気特性に大きな影響を与える。特に転位はデバイスの漏れ電流を誘発する可能性が指摘されているものの,その性質には未解明な点が多く残されている。
転位によって生ずる歪み場は,転位の性質を特徴づけるうえで大切な手掛かりだが,従来の分析手法では,3次元に分布した歪み場を検出・分析することができなかった。そのため,転位の存在状態を的確に把握し且つ制御することが,半導体結晶やそれを用いたデバイス開発における重要な課題となっている。
研究グループは,Na-flux法で作製した高品質GaN結晶の提供を受け,単独の転位に照準した評価・解析を行なった。ここでは,JASRIと共同で大型放射光施設SPring-8のBL13XUにおけるナノメートルサイズのX線ビームを用いた回折(ナノビームX線回折)法を駆使して,ナノ~マイクロメートルオーダーの高い空間分解能と1万分の1以下の高い歪み分解能でGaN結晶中の幾つかの転位を評価した。
その結果,転位周辺の3次元的な歪み場における全ての成分を検出することに成功した。この手法では,特に,電気特性の劣化に大きく寄与すると言われる,らせん成分をもつ転位の歪み場分布を精密且つ正確に捉えることができる。
従来手法では特定が困難であった転位の種類を歪み成分の分布にもとづき非破壊で判別することができ,それにより,電気特性に異なる影響を与える転位を的確に把握し,結晶やデバイス開発に役立てることが可能になる。
また,研究グループは,この手法は,GaN結晶だけでなく,パワーデバイス半導体としての研究開発が加速している炭化ケイ素(SiC)や酸化ガリウム結晶中の転位の分析にも応用でき,次世代半導体結晶・デバイスの開発と性能向上に貢献することが期待されるとしている。