理化学研究所(理研)と京都大学は,破砕・乾燥処理した海洋性の非硫黄紅色光合成細菌のバイオマスが作物栽培の窒素肥料として利用可能であることを明らかにした(ニュースリリース)。
食糧生産を担う現在の農業は化学合成された無機肥料に大きく依存しているが,無機肥料の製造と使用は環境へ多大な負荷をかけている。過剰に施肥され余剰となった無機窒素は環境中へと流出し,一方で炭素が供給されないため土壌の有機態炭素を枯渇させる。
また土壌中の余剰窒素は温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)へと変換され,農業分野からの排出の一因となっている。堆肥などの有機肥料は植物に栄養を補給し土壌構造を向上させるが,その効率は炭素(C)と窒素(N)の比(CN比=C/N)に依存してしまう。
一般的に用いられる有機肥料は窒素含有量の低い場合が多く大量の施肥を必要とするため,含まれる塩分やその他成分により土壌塩分や栄養毒性の問題を引き起こす。CN比が高い有機肥料は土壌中の有機態炭素を増加させるものの,N2Oの排出を増加させる可能性がある。
そのため,窒素含有量が高く,CN比が低い有機肥料が求められている。一方,近年の政治情勢は無機肥料サプライチェーンの混乱を招き,食糧生産への重大な影響が予測されている。このような状況により,環境負荷の小さい食糧生産のための持続可能な代替の窒素供給源が必要とされている。
破砕と乾燥処理を施した非硫黄紅色光合成細菌バイオマスは高い窒素含有量(11%重量比)と低いCN比(約4.7)を持つことが明らかになり,窒素肥料としての利用が期待された。
研究グループは,このバイオマスの肥料としての利用を検討するため,植物の発芽と生育における影響を調べた。コマツナを用いた解析の結果,無機肥料の4倍量に相当する量を用いても発芽と生育に悪影響を及ぼさなかった。
無機肥料と比較して非硫黄紅色光合成細菌バイオマスからは窒素がゆっくりと放出されるため,低温・高温いずれの栽培条件においても無機肥料の2倍の施肥により無機肥料と同等の生育を示した。
さらに,植物が含有する窒素量と土壌に加えられた窒素量の相関解析をすることにより,低温高温いずれの条件においてもコマツナが非硫黄紅色光合成細菌バイオマスから窒素を取り込んでいることを明らかにした。
研究グループは,この研究成果は,既存の窒素肥料に替わる持続可能な窒素肥料の開発に貢献すると期待できるとしている。