ソフトバンク(SB)は,独自のアンテナ技術の活用により,300GHz帯テラヘルツ無線を用いた,屋外を走行する車両向けの通信エリアを構築する実証実験に成功した(ニュースリリース)。
同社は,テラヘルツ無線を移動通信として利用するための研究を進めており,これまでに屋外での通信エリア構築の検証に成功し,見通し外でも通信ができる可能性を確認している。
しかし,端末向け通信では,常にビームを追従するシステムが必要で,装置の複雑化や端末の追従精度が課題となる。また,通信エリアを広げようとすると電力が分散してしまい,通信エリアがかなり小さくなってしまう。
そこで今回,通信エリアを車道のみに限定して電力の分散を防ぎ,通信可能なエリアを広げることで,走行車両向けのテラヘルツ無線通信エリアを構築した。
通常の基地局では利得の高いセクターアンテナが採用される。こうしたアンテナは,水平方向は広く,高さ方向は鋭くなるように電波が放射されるが,基地局の近傍では電波が弱くなるとがある。そこで今回,水平方向を鋭く,高さ方向に広い電波を放射することで,車の走行方向に対して安定するようなエリアを構築した。
また,コセカント2乗ビームの特性(コセカント2乗特性)を応用した。これは,航空レーダーの技術で,高低差のある送受信アンテナの水平距離にかかわらず,基地局と端末それぞれの受信電力が一定となる特性。
このコセカント2乗特性の実現には特殊なアンテナ構成が必要だが,同社はコセカント1乗ビーム特性のアンテナ(コセカントアンテナ)を独自開発し,それを基地局と端末の双方に用いることで,高いアンテナ利得を維持しながらコセカント2乗特性を実現し,受信電力を一定にした。
こうしたアンテナは,既存の移動体通信の周波数帯では大きくなるが,テラヘルツ波は波長が短いため,1.5cm×1.3cm×1.0cm(基地局用),1.5cm×1.3cm×1.5cm(端末用)というサイズを実現した。
実証実験は,送信側を地上高約10mにコセカントアンテナを取り付けた無線機を設置し,5Gの変調信号を300GHzに変換して送信した。受信側は,コセカントアンテナを取り付けた測定車を,送信側無線機の下を通る直線道路上を走行させて5Gの信号を測定した。
車の速度を徐行から時速30kmまで変化させながら測定を行ない,いずれの場合も無線機の近くからおよそ140mの区間において,走行中でも常に安定して試験信号を受信・復調できた。
同社は,通信不可となる電力まで余裕があるため,さらに長距離のエリア化が可能だとしている。