筑波大学,岡山大学,広島工業大学,東京工業大学,名古屋大学,東北大学,仏レンヌ大学は,カーボンナノチューブ(CNT)を窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)で包んで入れ子状にした筒形の構造体に光を照射すると,両者の間に電子の抜け道が発現することを発見した(ニュースリリース)。
ファンデルワールスヘテロ構造体は,異種の低次元材料を層状あるいは筒状に重ね合わせた材料。さまざまなバンドギャップを持つ半導体に変化したり,超電体として働いたりするものなどがあり,その機能の発現メカニズムの解明が求められている。
これまで,この構造体の静的な性質や光照射下における分光計測による励起子のダイナミクス計測は行なわれてきたが,電子線が界面に対して垂直に入ることにより,その構造情報が失われるため,光照射下における界面構造の変化に関する報告はなかった。
そこで研究グループは,CNTをBNNTで包んだ筒状のファンデルワールスヘテロ構造体(内側がCNTで外側がBNNT)を合成した。筒状の構造では,電子線が界面に対して一部平行に入るため,光照射下の界面での原子変位を直接的に観測できる。
一般に物質に光を照射する際,その物質のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光は物質に吸収され,それより小さいエネルギーの光は吸収されない。物質の機能は主に光が吸収されたときに生じる。
BNNTのバンドギャップは約6eV(@205nm)で,CNTのバンドギャップエネルギーは1eV以下(@1200nm以上)。ここに約3eV(@400nm)の近紫外光を当てるとCNTだけが光を吸収する。
しかし,超高速時間分解電子線回折実験では,バンドギャップが広く近紫外光のエネルギーを吸収していないBNNTの方が,光を当てた直後に速く振動するような原子変位を生じることが分かった。
広帯域の超高速過渡透過率計測により,この現象は光を当てたことで励起されたCNTの電子がBNNTの 方へ移動し,その電子のエネルギーがBNNT内で熱へと速やかに変化したことに起因することが分かった。
これは,物質を重ねることによってできた電子の移動チャネルによって,CNTのようなバンドギャップの狭い物質にエネルギーの低い光を当てることで,BNNTのようなよりバンドギャップの広い物質を駆動できる可能性を示す。この特異な電子の移動チャネルは,理論計算でもその形成が裏付けられた。
研究グループは,この現象について,熱エネルギーの超高速輸送に加え,超高速の光デバイス開発や,光照射で生じた電子や正孔の超高速操作などさまざまな技術に応用できる可能性があるとしている。