富士経済は,軽量性やフレキシブル性,製造コスト低減の可能性などから普及が期待され,商用化に向けて量産や施工の技術開発,実証が活発化している新型・次世代太陽電池市場を調査し,その結果を「2024年版 新型・次世代太陽電池の開発動向と市場の将来展望」にまとめた(ニュースリリース)。
この調査では,新型・次世代太陽電池の本命と目されるペロブスカイト太陽電池(PSC)を始め,色素増感太陽電池,有機薄膜太陽電池などの市場を捉え,2040年までの長期動向を展望した。また,参入企業20社の開発状況・計画などをまとめた。
それによると,PSCは,製造工程が少なく低コスト化が期待できることや,軽量化・薄膜化が可能であることから次世代太陽電池の本命と目される。特にフィルム基板型PSCは曲がる太陽電池として注目を集めている。C-Si(結晶シリコン)をはじめとする,既存太陽電池からの置き換えや,高効率なPSC/C-Siタンデム型の普及により市場が拡大していくと予想した。
本格的な量産は2020年代後半になるとみられ,2040年の世界市場は2兆4,000億円と予測した。中国を始めとする海外企業では,2025年から2030年ごろにかけてギガワット級の生産体制を構築する計画が増えており,日本企業より先行して量産化に向けた動きが進んでいる。
国内では,試験的な少量生産やサンプル出荷が始まっており,積水化学工業,東芝,パナソニックなどが先行しているほか,大学発ベンチャーやケミカル系メーカーの参入も増加している。商用化は2025年ごろとみられ,その後市場は中長期的に拡大すると予想した。
BIPV(建材一体型太陽電池)やBAPV(建物据付型太陽電池)向け,PSC/C-Siタンデム型の開発・生産によって急成長が期待でき,2040年度の市場は233億円と予測した。また,経済産業省がPSCを念頭においた新たなFIT買取区分の議論を本格化することを表明しており,政策の後押しも期待されるという。
PSC市場の基板別構成比の推移をみると,フィルム基板型は,軽量で応用製品の重量制限が少ないうえ,将来的には印刷技術を応用した量産化による生産コストの低減も期待されている。建物の壁面や窓,電気自動車などへの搭載に向けた研究開発が進められており,2030年以降に本格的な市場が立ち上がり,2040年の世界市場は5,100億円と予測した。
用途では軽量・フレキシブルという利点を生かし,BIPV向けを中心に様々な用途で活用されていくと予想した。課題は耐久性の低さや大型化であり,解決に向けた研究開発が進められている。
ガラス基板型は既存のC-Si生産ラインを活用した製造が可能であることや,応用製品の用途が広いこと,耐久性や歩留まりといった生産技術の観点で難易度が低いことから将来的にも市場の多くを占め,2040年の世界市場は1兆8,900億円と予測した。2024年時点ではBAPV向けを中心とした商用化が進んでおり,中国企業を中心に量産設備の稼働も増えている。
国内では,参入企業の開発注力度の高さから,当面はフィルム基板型が50%以上を占めるとみられるという。PSC市場の拡大にともなってガラス基板型も増加し,2040年度の構成比は30%程度に落ち着くものの,海外と比較してフィルム基板型が多くを占めると予想した。
色素増感太陽電池(DSC)は,2023年の世界市場は110億円となった。無線通信やセンサー用途での商用化が先行していたが,近年は消費者向けの電子機器や充電器などの用途開拓が進められている。製品当たりの搭載容量が小さいことが課題であり,将来的な市場は他の新型太陽電池と比較して小さく留まると予想した。
有機薄膜太陽電池(OPV)は,IoT機器向けや電子機器向けに加え,屋外での長期利用(20年間)を想定したBIPV/BAPV向けでも商用化が進んでいる。軽量・薄膜・フレキシブルで鉛不使用という特性を生かした用途開拓で,DSCやPSCと棲み分けることにより,一定の市場規模を確保すると予想した。一方でPSCの開発に軸足を移す企業も増えており,海外ではOPV生産設備の売却事例もみられるという。