東京医科歯科大学と産業技術総合研究所は,マイクロ波光子を超伝導人工原子に1回反射させるだけで両者のもつ量子ビットを交換できることを実証した(ニュースリリース)。
大規模量子コンピュータの実現に向け,光子のように動く粒子を量子ビットとして用いて,複数の量子プロセッサを接続することにより,量子ビット数を飛躍的に増大させる分散型量子コンピュータが有力な解決策として期待されている。
超伝導人工原子は超伝導状態にある非線形LC 回路によって実現され,回路の基底状態|g>と第一励起状態|e>を量子ビットとして用いる。つまり,超伝導量子ビットの状態は,両者の重ね合わせとしてα1|g>+α2|e>と表される(α1,α2は複素係数)。
一方,マイクロ波光子としては二種類のキャリア周波数(10.208および 10.266 GHz)をもつ単一光子を用い,低周波状態|ωL>と高周波状態|ωH>を量子ビットとして用いる。つまり,マイクロ波光子の状態は,両者の重ね合わせとしてβ1|ωL>+β2|ωH>と表される(β1,β2 は複素係数)。
今回の研究で用いたデバイスでは,超伝導人工原子が共振器を介して導波路に結合している。超伝導人工原子を適切な周波数および強度をもつマイクロ波でドライブし,それに合わせてマイクロ波光子を導波路から入射すると,反射後に両者の量子情報が交換する。
すなわち,反射後の超伝導量子ビットは状態β1|g>+β2|e>に,マイクロ波光子量子ビットは状態α1|ωL>+α2|ωH>にそれぞれ変化する。量子コンピューティングの言葉では,この動作は二量子ビットの交換(SWAP)ゲートと呼ばれる。
今回の研究では、超伝導人工原子とマイクロ波光子の間で双方向の量子状態転送が実際に起こっていることを実験的に確認した。これまでに,超伝導人工原子からマイクロ波光子へ,あるいはマイクロ波光子から超伝導人工原子へと,一量子ビットを一方向へと転送するスキームの報告はあるが,二量子ビットを交換する双方向転送は今回初めて実証した。
研究グループは,この超伝導人工原子・マイクロ波光子間の量子相互作用について,複数の量子プロセッサを光子によって接続し,量子ビット数を飛躍的に増やす「分散型」量子コンピュータの実現に応用できるとしている。