筑波大学の研究グループは,光によりアデノシンA2A受容体の感受性を高める薬物を開発し,マウスの側坐核選択的に光を照射することで睡眠を人為的にリモート誘導することに成功した(ニュースリリース)。
脳の側坐核は意欲行動や睡眠調節を司る脳領域であり,そこに存在するアデノシンA2A受容体(A2AR)により機能調節されることが知られている。そのため,側坐核のA2AR活性を任意に調節することができれば,睡眠や意欲行動を制御できると期待されている。しかし,A2ARは心臓を始めとするさまざまな器官に存在しており,遺伝子改変を伴わずに,脳内のA2ARのみを選択的に機能調節することは困難だった。
研究グループは,側坐核に存在するアストロサイトとニューロンの活動により,アデノシン濃度が局所的に変化し,A2ARの活性化を介して睡眠を制御していることを見いだした。これは,側坐核に発現する A2ARのアデノシン感受性を局所的に操作することで,睡眠を効率的に誘導できることを示唆している。
そこで,A2ARのアデノシン感受性を増強するポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)であるA2ARPAM-1を元に,新たな光応答性薬物OptoA2APAM-2を開発した。OptoA2APAM-2は光照射により保護基が外れ生理活性を現すケージド化合物であり,良好な血液脳関門透過性を有する。
これを野生型マウスに腹腔内投与した後,光ファイバーを介して側坐核に可視光(λ>400nm)を照射したところ,覚醒期におけるマウスの睡眠時間を1.7倍に増加させることに成功した。この効果は,A2AR欠損マウスや側坐核以外の脳領域への光照射では観察されなかった。
従来の光感受性薬物は、紫外光による光毒性、血液脳関門透過性、光反応効率などの点で課題があり、哺乳類を始めとする生体への応用は遅れていた。
研究グループは,今回開発した光感受性薬物は,紫外光による光毒性,血液脳関門透過性,光反応効率などの課題を解決するものであり,脳内A2ARを標的とする医薬品のみならず,他の伝達物質受容体を標的とした脳機能調節薬の開発におけるオプトケミストリーの可能性を示すものだとしている。