慶應義塾大学の研究グループは,15GHz程度の非常に高い繰り返し周期をもつ光周波数コムを,ピエゾ素子を利用した微小な機械的圧力によって発生させることに成功した(ニュースリリース)。
これまでに研究グループは,フッ化マグネシウム(MgF2)単結晶を切削,研磨することで作製した微小光共振器を用いて高繰り返しマイクロ光コムの生成・制御技術に関する研究を行なってきた。
2023年には共振器温度を制御することで,マイクロ光コムの周波数スペクトルと出力パワーを広範囲かつ連続的にチューニングできることを示した。しかしマイクロ光コムを生成するためには,励起レーザーの波長を高速に変調した上で,電気的な帰還回路で波長を安定化する複雑なセットアップが必要だった。
そこで研究グループは,ピエゾ素子を用いて微小光共振器に機械的に圧力を与える機構を開発した。外部からピエゾ素子に電圧をかけると,共振器との接触面を介して微小な圧力が光共振器に作用する。
研究で使用したMgF2微小光共振器は109を超える超高Q値であるため,ほんのわずかな圧力でも共振線幅の1,000倍を超える非常に高い効率で共振波長の変化を引き起こせることを実験的に確認した。
この手法を用いることで,励起レーザーの波長を変調する代わりに微小光共振器の光共振モードを高速に変調することが可能となり,ソリトンコムとして知られるモード同期したマイクロ光コムの生成が期待される。
このような方針のもとで実験を行ない,15GHzの繰り返し周波数をもつマイクロ光コムの発生に成功した。ピエゾ素子にわずか200mV程度の電圧変化をかけたとき,励起レーザー光が微小光共振器へ注入されマイクロ光コムが発生した。
出力されたマイクロ光コムはパルス幅200フェムト秒程度の超短光パルスになっており,その証拠として非常になめらかなスペクトル包絡線を観測した。また,ピエゾ素子にかける電圧を調整することでソリトン結晶とよばれるマルチパルス状態の生成にも成功した。このときの繰り返し周波数は46GHzに達していることを確認した。
さらにピエゾ素子に任意の電圧波形を加えることで繰り返し周波数の動的な変調を試みた。正弦波や三角波などの周期的な信号に応じて,繰り返し周波数が数kHz程度変化していることが分かった。周波数変調量は,熱的な制御に比べて小さいものの,機械的圧力を用いることでより精密かつ高速な周波数変調が可能であることを実証した。
研究グループは,この研究成果は高速大容量通信やマイクロ波レーダー,光時計への将来的な活用に大きく貢献することが期待されるとしている。