国立天文台(NAOJ)と西オーストラリア大学は,恒星進化の最終段階で残される白色矮星の,その中で最も重い星の表面で生じる爆発によって,大量のリンが合成されることを突き止めた(ニュースリリース)。
星の分光観測でたくさんの年齢の違う星のリンの含有量を測ることで,銀河系の歴史において,どのようにリンの存在量(ガス中に含まれるリン含有量)が変化してきたかを知ることができる。
生命にとって欠かす事のできないリンは超新星によって合成・放出されると考えられていたが,超新星で予測されるリンの合成量が,観測から期待される量に全然足りないことが知られていた。
そこで研究グループは,超新星以外にリンを合成する天体が他にあるのではないかという予測を立て,この天体が「新星」であることを突き止めた。
新星とは,突如星が明るく輝くように見える現象。これは連星系にある白色矮星の表面に伴星からのガスが降り積もり,ある臨界量に達すると核反応の暴走が起こり,爆発現象として観測される。新星現象が同じ白色矮星で何度も起きることは,観測的に回帰新星としても知られている。
白色矮星は星の終焉の姿であり,今回注目したのは太陽の7〜8倍という重い星が起源の「重い白色矮星」。重い白色矮星は酸素,ネオン,マグネシウムから構成されており,これに由来する新星は通常「酸素・ネオン新星」と呼ばれる。これまで新星が元素を供給する場として注目されることは,リチウムを除いてはほとんどなかった。
個々の星における鉄の量とリン鉄比の相関を示すデータは,ハッブル宇宙望遠鏡による近紫外線観測で得た。地上での近赤外線観測で得られたデータは,リンの吸収線が非常に弱いため,観測ターゲットは金属量が高い星に限られた。
その結果,酸素・ネオン新星でリンが他の元素とは異なり桁違いに多く作られることを見出した。そして,同じ酸素・ネオン白色矮星で新星爆発が10億年以上の間に何度も繰り返し発生することを計算に入れると,その最終的な合成量は超新星を大きく凌駕することがわかった。
今回,超新星ではリンが少量しか作られず,今からおよそ80億年前の宇宙で,重い新星からのリンが徐々に蓄積されていった結果,他の元素に対するリンの比率が最も高くなっていたことがわかった。
その後,現在に向かって徐々に重い新星が発生する頻度が低くなったこと,また同時に他の元素が別種の超新星で合成されていったことから,銀河内でのリンの比率は減少していったと考えられるという。
研究グループは,宇宙生物学(アストロバイオロジー)への新星の役割の重要性を主張する成果だとしている。