東京農工大学の研究グループは,針を使わずに柔らかい材料を貫通できる,集束マイクロジェットの貫通深度に関わる要因を特定することに成功した(ニュースリリース)。
注射針の再使用による感染拡大の可能性や,注射針に対する恐怖心から,注射針を使わない注射器が開発されている。
市販の針なし注射器で使用されている液体噴射口は,先端部の噴射口径がノズル口径よりも大きい拡散形状をしている。拡散形状の液体ジェットは皮膚との接触面積が大きいため,皮膚に加わる垂直応力が大きく,組織に損傷を与える可能性がある。
それに対し,この研究では,ジェット生成装置を用いて集束形状の液体ジェットを生成することで,皮膚に加わる垂直応力を軽減した。これは,同大が特許を保有する,凹状の気液界面に撃力が加わることで,液体が集束する技術を利用している。
さらに,レーザーを駆動力として使用することで,より高速のジェットを発生させることができる。この集束マイクロジェットにより,痛みが軽減されるだけでなく,ジェットの貫入効率と制御性の向上が期待される。しかし,浸透深さに影響する因子が完全に解明されていないため,未だ実用化には至っていなかった。
研究では,浸透深さに大きく影響する,柔らかい材料に対するジェットの貫通深度を調査した。まず,注入管の内径と,液面と柔らかい材料との距離,の 2 つのパラメータを変化させてジェットの貫通実験を行なった。
その結果,貫通深度は液面から一定距離でピークに達し,注入管の内径が増加するにつれて,その距離がより遠くになることが判明した。
次にマイクロジェットの速度分布を分析することにより,貫通深度のピーク距離と最大速度の関係がジェット形状の影響により変化することがわかった。これを解明するために,速度とジェット形状を統一する物理量「ジェット圧力力積」の概念を提唱した。
ジェット圧力力積とは,単位時間,単位面積あたりにかかるジェットによる力であり,ジェット圧力力積が大きいことは,ジェット断面積が小さく,速度の大きい「鋭い」ジェットが生成されていることを指す。
さらに数値シミュレーションを使用して実験条件を複製し,ジェット圧力力積を計算した。その結果,ジェット圧力力積の大きさと貫通深度との間に相関があることが示され,これが重要な因子であることが示された。
この結果は,集束マイクロジェットの貫通深度を制御するためのジェット圧力力積の重要性を示し,針なし注射技術の実用的な知見を提供するもの。研究グループは今後,貫通する物体の硬さの影響や薬効などについて検討し,さらなる実用化を目指すとしている。