東京大学と玉川大学は,野生種トマト8種と栽培種トマト2種の光合成特性を比較調査した。その結果,一般的な栽培種よりも優れた光合成能力をもつ野生種トマト(S.lycopersicum var.cerasiforme, S.chmielewskii 等)を発見した(ニュースリリース)。
世界人口の増加による膨大な食料需要に対応するため,食料生産性の向上は人類にとって最も重要な課題になると考えられている。作物生産性には,植物が光からエネルギーを生産する営みである「光合成」と密接に関連している。
光合成能力向上を目的として,近年では優れた光合成能を持つ野生種を発見・活用しようという研究も進められているが,これらの研究例はイネなどの穀類に限られている。
トマトは世界で最も多く生産されている園芸作物であり,加工流通量や品種改良の歴史から考えても人類にとって重要な農作物であるといえる。栽培種トマトの祖先である野生種トマトは,南米のアンデス地方を主な原産地としており,過酷な環境の高山から温暖湿潤な低地まで様々な環境に適応している。
そのため栽培種よりも優れた光合成能力を有する野生種トマトが存在する可能性があるが,野生種トマトの光合成特性を調査した研究は少なかった。トマト生産性向上のためにも,栽培種トマト育種に有効活用できるような野生種トマトの発見は非常に重要となる。
そこで研究グループは,南米のアンデス地方とガラパゴス諸島に自生する野生種トマト8種と栽培種トマト2種を栽培し,ガス交換測定装置を用いて,それぞれの光合成特性を測定した。
光合成に必要な二酸化炭素(CO2)は気孔を介して葉内に取り込まれるが,光合成能力の高い野生種トマトは小さい気孔を多くもつことを明らかにした。また,優れた光合成能力をもつ野生種トマトの生息地を解析したところ,平均気温が高く,降水量が多い環境に自生していることを明らかにした。
野生種は一般的な栽培環境とは大きく異なる自生地に適応した結果,多種多様な形質を獲得しているため,栽培種の育種にとって有望な遺伝子資源であると考えられている。研究グループは今後,野生種トマトがもつ優れた光合成能力を栽培種トマ トに導入することによって,さらに高い生産性を示すトマト品種の開発が期待されるとしている。