名古屋大学と東京大学は,2024年4月に打ち上げ予定の日米共同太陽フレア観測ロケット実験Focusing Optics X-ray Solar Imager 4号機(FOXSI-4)搭載高解像度宇宙X線望遠鏡の製作を完了した(ニュースリリース)。
太陽物理学の謎の一つである,太陽フレアの発生メカニズムの詳細理解が強く望まれている。FOXSI-4はこの理解を,世界に先駆けX線集光撮像分光観測で挑む。
フレア発生時には複雑な物理現象が同時に発生する。いつ・どこで・何が起こっているのかを精確に把握するための高解像度の望遠鏡は,これまでNASAマーシャル宇宙飛行センターが製作していた。
今回,名古屋大学,東京大学,夏目光学らを中心とした産学官連携により,国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発に挑んだ。この宇宙X線望遠鏡は,高解像度反射鏡,および打ち上げ時の振動や宇宙環境下への耐性を確保し反射鏡の性能劣化を防ぐ高精度反射鏡支持機構からなる。
高解像度反射鏡は精密ガラス研磨や精密電鋳法により,二次曲面形状を300nm程度の精度で作製し,実際に高い解像度を確認した。これは東京大学,夏目光学,名古屋大学が担当した。
また高精度反射鏡支持機構開発は,アルミ・ステンレス構造体のマイクロメートルレベルの精密加工技術,チタン構造体の高アスペクト比精密金属3Dプリント技術,マイクロメートル厚の薄膜を貼り付け組み立てる繊細なハンドリング技術等が駆使された。
これは名古屋大学,ブルーリッジ,大堀研磨工業所,国立天文台,東レ,蒲郡製作所が担当した。また,IMVと協力し,要求振動レベルに対する健全性を確認した。
その後,大型放射光施設 SPring-8およびNASAにてX線性能評価試験を行ない,15-20秒角程度の解像度を得て,過去のFOXSIシリーズの実績値を上回った。最終的には,2種類の望遠鏡(軟X線/硬X線望遠鏡)1台ずつを提供した。
観測機器は望遠鏡と検出器を組み合わせた7セットが米カリフォルニア大学バークレー校で組み合わされた。名古屋大学は検出器と望遠鏡の軸合わせを実施し,目標精度内での正対性を確認した。
2023年冬,試験は米ホワイトサンズ射場にて行なわれ,通信・姿勢制御系の装置等が組み込まれたロケットと観測装置を組み合わせた。名古屋大学メンバーは総合試験まで立ち会った。
開発した高解像度宇宙X線望遠鏡は,X線天文学のみならず,FOXSI-4 のような太陽物理学分野,さらに太陽地球系物理学やプラズマ物理学など他分野の研究者らも期待を寄せているという。