富山大学の研究グループは,有機硫黄酸化物のスルフィン酸を捕捉し蛍光発光する分子を開発した(ニュースリリース)。
生体内で生じる過酸化水素などは,細胞組織などを酸化的に損傷させ,がんなどの様々な病気に関連するとされている。こうした酸化環境によるストレスは,タンパク質の変異や損傷も引き起こす。
その中で,システインといったアミノ酸などに含まれるチオール(SH)などの硫黄官能基(原子団)は特に酸化の影響を受け,ポリスルフィド分子や強酸性のスルホン酸基(SO3H)へと変化してしまう。スルフィン酸(SO2H)は,そのスルホン酸に至る酸化過程の中間種として経由する。
こうした硫黄アミノ酸類の酸化種は近年,その変質によるタンパク質凝集などに起因する疾患の指標としての利用が提案されているほか,それに関連する生体内酸化還元の制御機構の詳細な解明に向けた化学種として注目され始めている。
そのため,スルフィン酸化されてしまったタンパク質などを捕まえ,取り出し,調べるという,いわばタンパク質のフィッシングを通じてそのタンパク質の形や機能を分析し,解明する必要がある。
しかし,近年その技術が登場し始めたものの,スルフィン酸の反応性がさほど高くないこともあり,効果的に釣り上げることのできる標識化学プローブ分子,すなわち釣り竿と針に相当する分子ツールの開発は発展途上となっている。
研究グループの過去の研究において,アゾ基を用いることでスルフィン酸を効果的に捕捉できることを見出していた。その当時の研究ではスルフィン酸はむしろ邪魔者だったが,発想を転換し,スルフィン酸をターゲットとした研究として,この知見を活用できると考えた。
研究の結果,アゾ基を持つ分子としてアゾナフタルイミドを設計することで,スルフィン酸と反応する前は発光せず,スルフィン酸を捕まえた分子だけが発光するターン・オン型蛍光発光分子の開発に成功した。
またその蛍光発光量子収率が0.91ときわめて高い値を示し,きわめて微量のスルフィン酸タンパク質を捕まえたとしても非常に強い発光によって見逃すことなく検出できる性能を持つことが明らかとなった。
研究グループは,この研究成果は,体内の酸化ストレスで損傷を受けるタンパク質などの検出や解析を通じた治療法の提案につながる基礎研究として,ライフサイエンスなどの分野での応用と発展が期待されるとしている。