情報通信研究機構(NICT)を中心とした国際共同研究グループは,光ファイバ伝送で世界最大の37.6THzの周波数帯域を活用し,毎秒378.9Tb/sの伝送実験に成功し,既存光ファイバの伝送容量の世界記録を達成した(ニュースリリース)。
増大し続ける通信需要を支えるために,光ネットワークの大容量化が求められている。近年,光ファイバの利用可能な波長帯を拡大したマルチバンド波長多重技術の研究が進んでいる。
既に配備されている光ネットワークにおいて,新たな波長帯の利用は光ファイバケーブルを増設せずに通信容量を増やせるため,経済的な大容量化方法として有用となっている。また,研究が進んでいる新型光ファイバとマルチバンド波長多重技術を組み合わせることで,将来にわたって光ネットワークの大容量化が可能となる。
これまでNICTは,商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯(C帯,L帯)に加え,一般的に商用化されていないS帯,E帯を利用可能にした光ファイバ伝送システムを開発し,大容量伝送を実証してきた。
更なる大容量化を実現するためには,新たにO帯,U帯を利用して波長帯を拡大する必要があるが,これら全ての波長帯に対応した光ファイバ伝送システムは実現されていなかった。
NICTは,O帯,E帯,S帯,C帯,L帯,U帯を合わせて世界最大の37.6THzの周波数帯域幅,1,505の波長数を使用可能にしたマルチバンド波長多重技術をベースとした光ファイバ伝送システムの設計・構築を行なった。伝送システムは,光ファイバ,光増幅器,送受信器,光スペクトル整形器,合波器/分波器などから成る。
研究グループが製作したO帯向けビスマス添加ファイバ光増幅器やU帯ラマン増幅器,O帯・U帯用の光スペクトル整形器など,各波長帯に対応した光ファイバ増幅器・光スペクトル整形器を駆使し,光ファイバの波長特性に合わせて全波長帯の光信号強度を最適設計し,毎秒378.9Tb/sの波長多重信号の50km伝送を達成した。
信号の変調には,情報量が多い偏波多重QAM方式を使用し,16QAMをO帯,64QAMをE帯,U帯,256QAMをS帯,C帯,L帯に使用した。過去の成果と比較して,伝送容量25%,周波数帯域幅35%の増加を達成し,それぞれ既存の光ファイバ伝送における世界記録を更新した。
研究グループは,今後は,光ネットワークの更なる大容量化を目指し,光ファイバにおける波長帯の拡張を目指すとしている。