岩手大学の研究グループは,岩手大学発の低次元超伝導物質の良質試料の合成に成功し,超伝導転移温度30K及び臨界磁場45Tの高い超伝導特性を示すことを見出した(ニュースリリース)。
1911年オランダの物理学者オンネスにより発見された金属系超伝導体は3次元的な特徴を示し,1986年べドルツとミューラにより発見された銅酸化物系超伝導体は2次元的な性質を示すことが知られている。
2004年に岩手大学で発見された超伝導体は1次元の特徴を有する世界初の低次元銅酸化物超伝導体だったが,超伝導特性に課題があった。また,超伝導試料に関して精密な構造解析は実施されていなかった。
この超伝導体の特徴は,CuO金属二重鎖が超伝導を発現する擬一次元超伝導体であり,銅酸化物として世界初の発見であり,その超伝導機構の解明の研究が進められている。
研究グループは,前駆体から良質な超伝導試料を作製するために,精密に温度制御可能な3ゾーン電気炉を試料合成に使用し,超伝導化するための熱処理条件を改良する実験を繰り返した。高磁場での超伝導特性を調査するために東北大学の超伝導マグネットを使用した。
さらに,CuO金属二重鎖を構成する銅と酸素の原子間距離などの詳細な構造解析を実施する必要性から,大型放射光施設(Spring8ビームラインBL02B2)を利用した。
研究グループは,低次元超伝導物質の良質試料の合成に成功し,超伝導転移温度30K及び臨界磁場45Tの高い超伝導特性を示すことを見出した。また,Spring8での放射光による超伝導試料のリートベルト構造解析を行ない,超伝導を発現する2重鎖間の距離がキャリアドープとともに短くなることを発見した。
さらに,磁気抵抗の測定結果から,磁場印加により電気抵抗の遷移幅が急に広がる現象が観測され,超伝導の磁束状態が従来の超伝導体とは異なり,熱力学的な相転移ではないことが示唆された。
研究グループは,今回の超伝導試料は良質ではあるが多結晶なので薄膜化や単結晶化が望まれるとしている。また,磁場を印加したときの超伝導状態(磁束混合状態)の相図(物理的状態)を明らかにするとしている。