千葉大学,北海道大学,大阪公立大学,大阪大学は,金ナノ微粒子が分散する懸濁液(金ナノインク)に光渦を照射することで,従来のインクジェット技術の限界を凌駕する微小なドットが印刷できることを実証した(ニュースリリース)。
近年,半導体・電子製品などを印刷して製造するプリンタブルエレクトロニクス技術に注目が集まっている。
しかし,従来のインクジェット印刷技術ではノズルが目詰まりを起こすため,高粘度材料の印刷が困難だったが,レーザー誘起前方転写法(LIFT)によって,それが可能になっている。
LIFTは,パルスレーザー加熱によってドナー膜に形成されたキャビテーションバブルの膨張・収縮によってドナーの液滴が吐き出されてレシーバー基板に転写される現象で,次世代プリンタブルエレクトロニクスの印刷手法として期待されている。
しかし,LIFTはドナー物質の液滴が吐出される方向を制御することは原理的に不可能だった。この課題を克服するため,研究グループは光渦を用いた光渦レーザー誘起前方転写法(光渦LIFT)を考案した。
光渦は,照射した物質にトルク(軌道角運動量)を与えることが知られている。光渦の軌道角運動量がLIFT現象によって吐出された液滴を自転させる結果,液滴が安定して直進飛翔するため,より精密にプリントすることが可能になる。
検証は,波長532nmの光渦ナノ秒パルスレーザーをガラス基板上のドナーである金ナノインクにビームスポットが35μmになるようにレンズで集光した。単一パルス照射によって,液膜から単一液滴を吐出し,ドナー基板に平行して設置されたレシーバー基板にドットとして印刷された。その結果,金属ナノ微粒子が密に充填された真円性・均質性の高いドットが印刷できた。
一方,ガウシアンビームを用いた従来のLIFTで転写されたドットは,いびつでドット中のナノ微粒子の分布も不均一だった。ドット径も光渦の結果と比較してかなり大きく,周辺にデブリが散乱していた。
さらに,印刷したドットの位置精度を評価したところ,光渦LIFTはガウシアンビームを用いた通常のLIFTよりも半分以下の距離差でドットを印刷でき,金ナノインクの文字パターニングが可能になった。さらに集光ビーム径を制御することで最小直径9μmのドット印刷にも成功した。
研究グループは,この印刷技術は,半導体インク材料や他の金属インク材料にも適応できるため,次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の基盤技術としてフレキシブル回路の量産技術などへ発展するとしている。