名古屋大学の研究グループは,銀河系に落下するガス雲(高速度雲・中速度雲)の重元素量分布の,全天にわたる精密な地図を世界で初めて作成した(ニュースリリース)。
1990年代から2000年頃に集中して行なわれた,原子吸収線スペクトルによる測定によって,中速度雲は太陽系の周囲のガスと同程度の重元素量で噴水モデル的な物質の循環,高速度雲は10分の1程度の重元素量で銀河系外から落下しつつあるガスと報告・解釈された。
しかし,これらの測定は,非常に明るい遠方銀河・星を背景光源として使う必要があり,高々数十箇所の測定に留まる。手法的限界により,これ以上の進展が期待できないこともあり,観測研究はその後ほとんど発展していなかった。
研究グループは,2015年頃よりプランク衛星国際共同研究グループに参加し,星間ガスとサブミリ波のダスト放射の相関の研究に着手していた。そこで研究グループは,プランク衛星による研究の一環として,ダストと星間ガスの中性水素原子の相関関係を調べ,水素原子の精密定量の手法を開拓し,独自の領域を拓いた。今回の成果はその延長線上にあるもの。
研究グループはまず,21cm線と,プランク衛星によるダストの2種類の高解像度全天地図を使って,高速度雲,中速度雲,そして比較の基準となる太陽系周囲のガスのそれぞれについて,重回帰分析,地理的加重回帰分析の手法を使って,ダスト/水素比(重元素/水素比と見做してほぼ差し支えない)の地図を作成した。
この手法は,背景光源を使わないため,任意の方向での重元素量測定が可能となり,情報量が飛躍的に増加したことで,今回の革新的成果につながった。更に,得られた情報を統計的に分析し,これまで中速度雲の重元素量は太陽系周囲のガスとほぼ同じであるとされてきた定説が誤りであり,中速度雲の大部分が重元素量の低い始原的ガスである可能性を明らかにした。
研究グループは,この研究によって,銀河系に落下するガス雲の起源について,二十年来の膠着状況が打開され,100億年規模の銀河系の成長進化について新たな研究展開が期待されるとしている。