名古屋大学の研究グループは,気孔開口のエンジンの働きをする細胞膜プロトンポンプの881番目のスレオニン残基(Thr881)のリン酸化を介した新規活性調節機構を明らかにした(ニュースリリース)。
植物は,太陽光に応答して気孔を開口しガス交換を行なう。研究グループは,気孔開口においてエンジンの働きをする細胞膜プロトンポンプの研究を進めてきた。
これまでに,青色光に依存したC末端から2番目のThr948のリン酸化が活性化に必要であること,リン酸化Thr948の脱リン酸化にはタイプ2CプロテインホスファターゼD(PP2C.D)が関与すること,さらに孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのタンパク質量を増やすと,気孔開口が促進され,光合成活性や植物の成長や収量が増加することなどを明らかにしてきた。
このように,細胞膜プロトンポンプの活性化は,気孔開口の駆動力を生み出す重要な反応だが,青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか,その活性化機構の詳細は完全には明らかになっていない。
研究グループは,その実態を解明するため,ソラマメ孔辺細胞プロトプラストを用いて細胞膜プロトンポンプの網羅的リン酸化プロテオミクスを行なった。
これまで孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプは,青色光受容体フォトトロピンを介した青色光によりThr948がリン酸化することで活性化されるとされてきたが,解析の結果,孔辺細胞に赤色光が照射されると,葉緑体における光合成を介してThr881のリン酸化が誘導され,さらに,青色光が照射されると Thr881とThr948のリン酸化が引き起こされて細胞膜プロトンポンプが活性化し,気孔開口が誘導されることが明らかとなった。
さらに,シロイヌナズナを用いた遺伝子組換え実験により,Thr881のリン酸化が気孔開口に必要であることが明らかになった。また,Thr881のリン酸化は孔辺細胞のみならず葉や芽生えでも観察されることから,植物体全体で共通の活性調節機構であると考えられた。
研究グループは,この研究で明らかとなった細胞膜プロトンポンプの精緻な活性調節機構を基盤として,今後,改変型プロトンポンプを用いた植物改変などの利用が期待されるとしている。