明治大学の研究グループは,ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803(シネコシスティス)による有機酸と水素生産が,細胞内の物質であるNADHの酸化型と還元型の比率と関連することを明らかにした(ニュースリリース)。
近年,カーボンニュートラルな社会を実現するための低炭素技術の重要性が高まっており,その担い手として,光合成細菌であるラン藻が注目を集めている。
なぜならば,ラン藻は,光合成によって取り込んだ二酸化炭素をもとに,化石燃料由来の物質を代替可能な,多様な代謝産物を生産できるため。その中でも,モデルラン藻として広く研究されているシネコシスティスは,暗所かつ嫌気的な条件において,炭素の数が4つであるC4ジカルボン酸や乳酸,酢酸などの有機酸や,水素などの有用物質を生産することが可能。
有機酸はバイオプラスチック原料や医薬品,産業分野での利用,水素はエネルギー資源としての利用が期待されている。これまでの研究では,有機酸や水素の生産においては,有機酸同士の炭素源の競合や,有機酸や水素を生産する酵素が使用するNADHという物質の競合が指摘されてきたが,他にもまだ明らかになっていない要因が影響している可能性が示唆されている。
今回,研究グループは,シネコシスティスの有機酸と水素生産に影響を与える要因として,有機酸と水素生産に用いられる物質であるNADHの細胞内での状態に着目し,NADHの2つの形,酸化型のNADHと還元型のNAD+の比率であるNADH/NAD+比の値が関連していることを明らかにした。
具体的には,C4ジカルボン酸の生産に関与する酵素であるリンゴ酸デヒドロゲナーゼを過剰発現させた遺伝子改変株と,酢酸生産酵素である酢酸キナーゼを欠損させた遺伝子改変株では,野生株と比較してNADH/NAD+比が低下し,水素生産が減少し,C4ジカルボン酸と乳酸の生産が増加することが分かった。
これらの結果は,シネコシスティにおける有機酸・水素生産とNADH/NAD+比の関連性を示すものであると考えられる。
研究グループは,この成果は,有機酸や水素の増産を目指す際に,これまで注目されてきた炭素源やNADHの競合に加え,細胞内の物質の酸化還元バランスを考慮したアプローチが重要であることを示すものだとしている。