理化学研究所(理研)と北陸先端科学技術大学院大学は,結晶シリコン太陽電池に用いられる薄膜のシリコン堆積条件を最適化する新たな手法を開発した(ニュースリリース)。
研究グループではこれまで,触媒化学気相堆積(Cat-CVD)法を用いた太陽電池用薄膜形成に取り組んできた。特に,非晶質シリコン膜と結晶シリコン基板との接合からなるシリコンヘテロ接合太陽電池は,低損傷での膜堆積が可能なCat-CVDの優位性が生かせることから,有用な応用先として注力している。
この製膜においては,多数の製膜パラメータが存在するため,太陽電池出力を最大化する最適製膜条件の発見には,一般に膨大な実験回数(試行錯誤)を要する。このような実験条件の最適化問題に対して,ベイズ最適化と呼ばれる,機械学習を応用した逐次最適化法が,最近よく使用されている。
しかし,太陽電池出力の最大化のみを目的とした単純なベイズ最適化では,次の実験条件で得られる膜の厚さを規定する機能は無く,デバイス動作上問題が生じるような厚膜が形成されうる。また,ベイズ最適化によって提示される実験条件が,実現不可能な組み合わせ(例えばガス流量と製膜装置のポンプの排気能力の不整合)となる可能性がある。
今回の研究では,これらのベイズ最適化における実践的な問題を解決するための,制約付きベイズ最適化を開発した。この手法では,未実施の実験条件のうち,製膜装置の仕様上実現が困難な実験条件を機械学習による予測に基づいてあらかじめ排除し,残りの条件の中からキャリア再結合抑止性能を最良化する可能性のある実験条件を提示させるよう工夫した。
さらに,一定の製膜時間における予測膜厚を提示させる機能を持たせ,所望の膜厚を得るための製膜時間を逆算できるよう設計した。これらの制約を組み込むことで,製膜装置が実現可能な条件の範囲内でかつ一定の膜厚を有し,キャリア再結合抑止性能を最良化するベイズ最適化の手順を進行させることが可能となった。
開発した制約付きベイズ最適化を用いることで,わずか8回のサイクルにより最適な製膜条件に到達し,20回のサイクルでベイズ最適化工程が完了した。
また,このベイズ最適化の提示に従って複数の製膜パラメータを広い範囲で変化させた結果,高いキャリア再結合抑止性能の実現には,製膜時の基板温度と原料ガスであるSiH4の流量の組み合わせが重要であることも見出した。
研究グループは,この研究で得られた手法は,太陽電池製造や薄膜堆積に限らず,幅広い分野や試料作製に適用可能な手法として期待されるとしている。