東京医科歯科大学は,光を用いて成熟破骨細胞を分化誘導する新たなツール「Opto-RANK」を開発した(ニュースリリース)。
光遺伝学は光を用いて光感受性タンパク質を可逆的に,そして時空間的に自在に制御することを可能にしている。脳神経系の研究では神経活動を光で制御できるチャネルロドプシンが広く応用され,神経ネットワークや神経機能の理解が大きく進んでいる。
光遺伝学の神経活動以外への応用は大きく遅れていたが,近年タンパク質工学技術の進展により様々な光遺伝学ツールが人工的に作られるようになってきた。
光による細胞内シグナルの操作,遺伝子発現や遺伝子組換えの誘導などが可能になってきたが,一つの光遺伝学ツールのみで細胞を分化させて特定の機能を持つ成熟細胞を作り出すような研究はほとんど行なわれてこなかった。
骨は運動,身体の保護,造血,ミネラルの恒常性維持に重要であり,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のダイナミックなプロセスが骨の構造を維持している。
破骨細胞の過剰な活性化は骨粗鬆症や歯周病の原因となり,破骨細胞の機能不全は骨硬化を呈する大理石骨病などの原因となることが知られている。
破骨細胞は血球系の細胞であり,その分化前の前駆細胞はRANKタンパク質を細胞表面に発現している。RANKLタンパク質というRANKタンパク質の結合パートナーがRANKと結合することにより前駆細胞は分化誘導され巨大な多核の成熟破骨細胞になる。
研究グループは,光を用いて成熟破骨細胞を分化誘導する新たなツールOpto-RANKを開発した。光照射を制御することで特定の場所で破骨細胞を生み出すことに成功し,その結果,局所的な骨吸収が可能となった。
この成果により,光を用いて細胞を分化誘導し,機能的な細胞を生み出すという光遺伝学の新たな応用方法を示すことができた。自由に光照射をコントロールできるメリットを生かして,細胞分化における細胞内のシグナル伝達の時空間的な詳細な解析が可能になる。
また,光照射をコントロールして骨吸収を操ることができることから,研究グループは,骨疾患や歯科矯正の新たな治療方法の開発につながる可能性があるとしている。