名大ら,有機EL材料の発光効率の増幅機構を発見

名古屋大学と九州大学は,次世代有機EL発光材料の発光効率を増幅する新しい量子機構の理論的発見に成功した(ニュースリリース)。

有機ELにおいて,非発光性の励起三重項の蓄積は発光量子効率低下の原因となるため,スピン反転によりこれを励起一重項へと変換して発光させる熱活性化遅延蛍光(TADF)機構が注目を浴びている。

TADF材料の高性能化の鍵は,律速過程であるRISC過程におけるスピン反転の高速化にある。速度定数の予測式として有名なMarcus理論に基づくと,スピン反転の高速化のためには,①スピン–軌道相互作用を大きくすること,そして②励起一重項–励起三重項エネルギー差を小さくすることが必要。

この設計指針に従って,様々なMR-TADF分子の開発が進められている。一方で,Marcusの公式では考慮されない量子的効果がRISC過程を加速することが示唆されている。

近年になって,分子の振動によって強められる量子効果の重要性が指摘されるようになってきている。これとは独立して,分子が有する第二,第三,…の高次の励起三重項状態がRISC過程の促進に重要な橋渡し役を担うことが示されてきた。しかしながら,これら2つの効果を同時に考慮した計算手法は未開拓だった。

研究グループは今回,MR-TADFにおけるRISCの速度定数の新しい予測式を導出した。その導出では,分子振動に起因するスピン軌道相互作用の増幅効果(HT-SVC効果)および複数の三重項状態が複合的にスピン反転を促進する効果(NA-SVC効果)に着目した。

それぞれ独立した効果だが,この手法はこの2種類のスピン反転機構を総合して考慮できる。この理論式に基づいて,RISC速度定数をシミュレーションする新しい手法を開発した。量子化学計算によって算出される分子情報を取り入れて評価することが可能。この計算法を「2nd+HT理論」と命名した。

これにより研究グループは,TADFの律速過程であるスピン反転を飛躍的に高速化する新しい量子機構を発見した。この量子機構では,分子の振動が誘発するスピン反転効果と,高次の励起三重項状態を用いるスピン反転効果とが協調し合うことでスピン反転が飛躍的に高速化する。

この機構に基づく新理論を導き出し,従来理論での見積もりと比べて約1000倍以上のスピン反転速度をもたらす加速効果を生み出すことをシミュレーションから発見することに成功した。

研究グループは,有機EL発光材料の開発は既存の理論に縛られているが,今後の研究により,この手法が明らかにした新原理に基づく高性能な有機EL発光材料の創出が期待されるとしている。

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