神戸大学の研究グループは,独自に開発した構造色インクを用いることにより,世界最軽量クラスの構造色塗装が可能であることを実証した(ニュースリリース)。
近年,退色しない構造色が注目されているが,見る角度によって色が変わる,配列など周期構造が必要である,などの理由により従来の塗料に置き換えることが困難だった。
研究グループでは,屈折率が非常に高いケイ素ナノ構造が示すMie共鳴を利用し,特定の波長の光を強く散乱させることで発色させる手法を開発してきた。
特に,ほぼ真球の結晶シリコンナノ粒子の作製,粒径制御と安定な溶液分散を実現し,粒径によって発色が変化する構造色ナノ粒子インクを世界で初めて実現した。
今回の研究では,構造色ナノ粒子インクを用いてシリコンナノ粒子が一層だけ配列した非常に薄い膜を形成し,その発色特性について詳細な調査を行なった。
はじめに,シリコンナノ粒子が六方格子状に配列した構造について,電磁場シミュレーションにより反射率スペクトルを評価した。その結果,わずか1層のシリコンナノ粒子単層膜でも反射率が約50%に達し,明るい構造色が得られることがわかった。
また,粒子間の距離をあけて,粒子をまばらに配列すると,反射率がさらに増加した。例えば,粒子間距離を50nmにすると,最大で90%以上の反射率が得られた。また,さらに間隔をあけて,粒子の体積充填率を10%まで減少させても,反射率は70%を超えることを見出した。
これは,個々のシリコンナノ粒子が非常に高い散乱効率を有していることに起因し,非常に少ない材料で明るい構造色が得られることを示している。
この特性を実証するために,ラングミュア-ブロジェット (LB)法により,ガラス基板上にシリコンナノ粒子の単層膜を形成した。粒子膜は,粒径に依存して紫~橙色の構造色を示した。この発色は,斜め45度から観察してもほとんど変化せず,従来の構造色と異なり角度依存性が非常に小さいことがわかった。
全光線反射率測定により反射特性を評価したところ,ピーク反射率は30~50%であり,シリコンナノ粒子の単層膜によって十分に明るい構造色が実現できることが明らかになった。
さらに,シリコンナノ粒子単層膜を部分的に酸化して疑似的に粒子間の距離を大きくした試料についても研究を行なった。それにより,基材上にシリコンナノ粒子がまばらに散在した状態においても,構造色によって着色できることを示した。
研究グループは,この成果は,従来の塗料よりはるかに少ない量で着色塗装が可能であることを示しており,例えば,大型航空機の塗装を1/10以下に軽量化できる可能性があるとしている。