物質・材料研究機構(NIMS)は,世界で初めてダイヤモンドのn型チャネル動作による金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を開発した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドCMOSを実現するには,シリコン半導体と同様に,高度なドーピング制御が必要。しかしながら,ダイヤモンドではドーピング制御の困難さからnチャネルMOSFET形成はこれまで実現されておらず,挑戦的な課題だった。
n型ダイヤモンドMOSFETの形成には,高結晶品質ダイヤモンドn–型チャネルエピタキシャル層と高導電性n+コンタクトエピ層の成長が不可欠。
研究グループは,高温高圧合成(HPHT)単結晶ダイヤモンド基板{111}結晶面に,独自開発のマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)によって精密にドーピング濃度を制御した高品質n型ダイヤモンドエピ層を形成した。
デバイスチャネル用に低濃度のリンをドープしたn–ダイヤモンドエピ層は,HPHTダイヤモンド基板表面に直接成長した。その後,オーミックコンタクトの形成用に高濃度でリンをドープしたn+層をn–層表面に堆積した。
n–型ダイヤモンドのホモエピタキシャル成長は,ステップフロー成長モードに従い原子的に平坦なテラスを形成することが原子間力顕微鏡(AFM)観察で確認された。成長面内でのリン濃度の均一な分布,またドナーを不活性化する水素含有量が測定限界以下に低いことも二次イオン質量分析(SIMS)で確認されている。
ダイヤモンドエピ層の電子移動度はホール効果によって測定され,300℃の高温において212cm2/V・secの高い値が得られている。
作製した金属酸化膜半導体電界効果トランジスタの動作を調べると,ソースとドレイン(n+層)のコンタクト間のチャネルに流れる電流をゲート電極にかける電圧で制御でき,その極性から電子(n型)伝導性を世界で初めて確認した。
ドレイン電流は,室温から300℃までほぼ4 桁増加し,300℃における電界効果電子移動度は約150cm2/V・sec の高い値を示した。
これは他のワイドギャップ半導体nチャネルMOSFETの同一温度域での移動度と比較して十分に高い値。また,高周波動作に関しては,300℃の高温でマイクロ秒レベルのスイッチング速度が得られた。
研究グループは,この研究成果は省エネパワーエレクトロニクス,スピントロニクス,モノリシック集積した微小電気機械システム(MEMS)センサー等への応用に向け,低損失,軽量な耐環境CMOS集積回路の実現に繋がるとしている。