東京大学,広島大学,香川大学は,天の川銀河の渦巻き腕のひとつである「いて座銀河腕」の内部の磁場構造を三次元的に明らかにすることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
宇宙空間に存在するガス(星間ガス)は,星間磁場の磁力線に沿って集まる傾向がある。この現象によって,星間ガスの塊,いわゆる星間雲が生まれ,星間雲の中では新しい星が生み出される。
これまでの技術では,星間磁場の様子を視線方向に重なった平均値としてしか捉えられず,たくさんの星が活発に生み出されている天の川の内部で星間磁場がどの様に分布しているのかはこれまで分かっていなかった。このため天の川の磁場は,天の川に沿った方向にほぼ揃っていると考えられていた。
天の川内部の磁場構造を明らかにするために,研究グループは,天の川銀河の渦巻き腕構造のひとつである「いて座銀河腕」に着目し,この銀河腕を見通す様に観測を行なった。観測には広島大学かなた望遠鏡に搭載した観測装置「HONIR」を用いた。これは広い領域の磁場構造を捉えるのに最適化された装置。
星からの光は,地球に届くまでの間に星間雲を通過する際に,磁場の向きに垂直な方向の光の振動が抑制されることにより,磁場の向きに沿った光の振動が他の方向よりも大きな状態となる。これを偏光と呼ぶ。
HONIRを用いてこの偏光を観測することで,星と地球の間にある磁場の様子を知ることが出来る。しかし途中に複数の星間雲が存在した場合,それぞれがどの様な磁場構造を持っているかがこれまでは分からなかった。
研究グループは,ヨーロッパ宇宙機関の打ち上げたGaia衛星で測定した星までの正確な距離を元に,様々な距離の星々の偏光観測データを組み合わせることで,途中に存在する複数の星間ガス中の磁場を正確に取り出す手法を開発した。
この手法を適用することで,天の川内部の磁場が,距離毎に揃って天の川の向きから大きく傾いた磁場が,幾重にも折り重なって存在することが初めて明らかになった。これは天の川の中でどの様に星間ガスが集積し,星を生み出すに至るのかを知るための非常に貴重な資料となる。
研究グループは,今後この手法により,天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスの集積過程について,観測的に明らかに出来るとしている。