広島大学と量子科学技術研究開発機構(QST)は,数μmまで微小な空間を分解しながら電子とスピンの運動を超精密に観察できる空間・スピン・角度分解光電子分光 (顕微SARPES)の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
IoT化に向け情報端末の超低消費電力化・高性能化を実現するスピントロニクスが期待され,その中でもトポロジカル絶縁体におけるスピン流が注目されている。しかし,物質内の電子が持つスピンの運動を微視的に観察することが困難であるため,集積化に向けμmまで微小化された場合にスピン流がどのように振る舞うかまで明らかにできる実験技術は存在していなかった。
研究グループは,スピン検出と顕微鏡を融合して両立させた顕微SARPESの開発に世界で初めて成功した。開発した顕微SARPESは,低速電子線回折型のスピン検出器と深紫外レーザーを組み合わせることでスピン検出の実験効率を大幅に向上させ,さらに深紫外レーザーを数μmまで集光することで走査型の顕微鏡としての機能も組み込んだ新たな実験技術。
従来の実験技術ではトポロジカル絶縁体の代表例であるビスマステルライド(Bi2Te3)のスピン流の観察には数時間の測定を必要としていたが,研究グループはその観察がスピン検出の高効率化された顕微SARPESを用いることで数十分程度に短縮して行なえることを示した。
さらに,顕微SARPESの顕微鏡とスピン検出をうまく利用することで,多元素を含む特殊なトポロジカル絶縁体PbBi4Te4S3の微小表面に異なるスピン流が発生している様子を明らかにした。
研究グループは,この研究成果は超省電力・情報集積化を実現するスピントロニクス技術の発展に貢献し,世界中で問題とされているエネルギー問題を解決する糸口となることが期待されるとしている。