金沢工業大学,高知工科大学,大阪公立大学は,光を当てると物質の構造や性質が変化する光誘起相転移の初期プロセスを世界で初めて原子スケールで観察することに成功した(ニュースリリース)。
物質は,温度や圧力などの外部環境の変化に伴って,同じ化学組成を保ちながらも異なる構造や性質の状態(相)に変化する。この現象は相転移と呼ばれ,材料の熱処理や合金設計を始めとする今日の材料工学で広く利用されている。
一方,近年,特定の物質に光(可視光)を照射して相転移を起こす光誘起相転移の研究が盛んに行なわれている。特に光照射によって,物質が初期構造からどのようなプロセスを経て相転移に至るのかという問題は,理論的な考察はなされているものの,これまでの研究が,主に光照射による物質のマクロな構造や物性の変化に焦点を当てており,相転移に伴う原子レベルでのミクロな変化を捉えられていなかったため,直接観察した例はなかった。
そこで,研究グループは,物質表面を超高解像度で観察できる走査型トンネル顕微鏡を活用して,光誘起相転移に伴う構造の変化を原子レベルで直接検出しようと試みた。実験では,炭素原子から成る黒鉛(グラファイト)が光照射によってダイヤファイトと呼ばれる秩序構造へ相転移する現象を対象とした。
その結果,光を照射した黒鉛上では,始めにわずか2個の炭素原子から成る0.5nm程度の核が形成されること,さらに,その核が,周辺へ拡大しながらドメインを形成し,そのサイズが約5nmに達すると,構造が黒鉛からダイヤファイトへ大きく変化することを明らかにした。
これら一連の相転移プロセスは,理論的には予測されていたが,今回,走査型トンネル顕微鏡を用いた原子分解能での構造観察により,世界で初めて検出に成功したもの。
また,上記の相転移プロセスが,当てる光の波長に依存して大きく変化することを発見した。短い波長の光を当てると,黒鉛上のいたるところで核が効果的に形成されるが,長い波長の光を当てると,核の形成よりも核がドメインへ拡大するプロセスが優先的に生じる。この結果は,光のチューニングにより,相転移の一連のプロセスを原子レベルで制御できること示している。
研究グループは,光誘起相転移を利用し,従来の物質科学の枠を超えた新しい材料開発を加速させることで,微細加工技術や材料科学の分野での応用が期待できるとしている。