大阪大学と東京大学と産業技術総合研究所(産総研)は,ナノポア(ナノメートルスケールの細孔)内のイオンの流れを利用した温冷自在の熱デバイスを開発した(ニュースリリース)。
ものを電気で冷やす便利な道具の一つとして,ペルチェ素子がある。これは,負の電荷を持つ電子と正の電荷を持つホールのどちらかをより多く含む半導体を使った技術。
例えば電子を多く含む半導体に電圧を加えると,電子が一方向に動く。この時,電子は電気だけでなく熱も運ぶため,半導体の両側には温度差が生じる。この現象はペルチェ効果と呼ばれ,静音かつ小型な冷蔵庫やクーラーとして,われわれの生活に役立てられている。
一方,生理食塩水などのイオンを含む液体中にも,半導体の電子とホールと同じように,負の電気を帯びた陰イオンと正の電気を帯びた陽イオンが存在する。そこで研究グループは,電圧を加えた時に,陰イオンまたは陽イオンだけが一方向に流れる状況を作ることができれば,ペルチェ素子と同じようにして,イオンの流れで液体を冷却する技術も可能なはずだと考えた。
ただ,生理食塩水には同じ程度の陽イオンと陰イオンが含まれる。このため,例えば生理食塩水で満たされたナノポアに電圧を加えると,ナノポア内には陰イオンと陽イオンの両方が流れてしまい,冷却効果は得られない。
そこで研究グループは,陽イオンだけが流れる極めて小さなナノポアを開発した。まず,二酸化珪素薄膜中に様々な形状・構造のナノポアを加工し,そこに生じるイオンの流れを調べた。その結果,ナノポア直径を50nmにまで小さく作ると,二酸化珪素の表面にある負電荷の影響で,陰イオンは電気的な反発力を受けナノポアを通過しなくなり,陽イオンだけがナノポアを流れるようになることを確認した。
その上で,ナノポアのすぐ脇にナノサイズの温度計を設置し,一方向の陽イオンの流れに伴うペルチェ効果によってナノポア近傍の温度がどのように変化するかを測定した。その結果,ナノワットレベルの僅かな電力で効率的にナノポア近傍の空間を冷却できることを明らかにした。
さらに,ナノポアの両側を塩濃度の異なる生理食塩水で満たすと,簡単な電圧制御で,冷却だけでなく昇温も可能な温冷器になることを実証することに成功した。
研究グループは,この研究成果によって,PCやモバイル端末を冷却する極薄シートモジュールや,ナノポア発電素子の性能向上の実現が期待されるとしている。