東京大学の研究グループは,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使い,120-130億年前の遠方宇宙に10個の巨大ブラックホールを発見した(ニュースリリース)。
私たちの宇宙には,太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持つ巨大ブラックホールが存在している。このようなブラックホールは銀河の中心に存在しているが,宇宙のどの時代にどのように形成したのかはよくわかっていない。
そのため形成間もないと考えられる,昔の宇宙(遠方宇宙)に存在する巨大ブラックホールは,天文学者の重要な研究対象になっている。従来の巨大ブラックホール探査では,ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝くクェーサーを探す方法が一般的だった。
すばる望遠鏡などの地上の望遠鏡を使った探査により,これまで120-130億年前の遠方宇宙でたくさんのクェーサーが見つかってきた。しかし同じ時代に存在する銀河の数に比べると,クェーサーの数は1000の1以下であり,遠方宇宙ではとても珍しい天体だと認識されていた。
2022年に本格的な運用を開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により,遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍高い感度の観測が可能になり,個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になった。
研究グループはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外分光器NIRSpecで得られた遠方銀河の観測データを解析していく中で,120-130億年前の10個の銀河から,活動的な巨大ブラックホールの存在を示す特徴的な幅広い水素の輝線が出ていることを発見した。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の圧倒的な感度と解像度により,今回見つかった巨大ブラックホールの画像からは,巨大ブラックホールからの光と思われる小さくコンパクトな光だけではなく,その巨大ブラックホールを保持する銀河から広がった光も見ることができ,活動的な巨大ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することが示唆された。
さらに研究グループは,スペクトルの情報からこれらの巨大ブラックホールの質量を求めた。発見した巨大ブラックホールは質量が太陽の100万倍から1億倍と,クェーサーの持つブラックホールに比べて100倍ほど軽く,より形成初期に近い天体であることがわかった。
一方で現在の宇宙に存在する同じような銀河が持つ巨大ブラックホールと比べると質量は10倍から100倍ほど大きく,遠方宇宙でブラックホールが急成長している様子を見ている可能性があるとしている。